東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: 学校教材発掘プロジェクト 6

源氏百人一首 - 翻刻

源氏百人一首 - ページ 49

ページ: 49

翻刻

【右丁 上段】 夕顔(ゆふがほ)の女房(にようばう)也 夕(ゆふ)がほうせ て後(のち)源氏の御方(おんかた)に仕(つか)ふ 此うたは玉(たま)かづらの行(ゆく)へを しらん為(ため)に初瀬(はつせ)に詣(まう)です なはち玉かづらにめぐり合(あひ) たる時(とき)に詠(よめ)る也 心(こゝろ)は此はつ せにいのりて尋(たづね)はべらずば 年(とし)を経(へ)てこゝに二(ふた)たび めぐり合(あひ)奉(たてまつ)るべきやと也 ○初瀬川(はつせがは)古川(ふるかは)のべに二本(ふたもと) ある杉(すぎ)年(とし)を経(へ)て又(また)も 逢(あひ)みん二本(ふたもと)ある杉(すぎ)のうた にてよめりたちどは立(たて)る 所(ところ)也 【同 下段】  右近(うこん) ふたもとの 杉(すぎ)の  たち どを たづね   ずば 古川(ふるかは)野(の)べ   に きみを  見ましや 【左丁 上段】 源氏の御 娘(むすめ)にて御 母(はゝ)は明石(あかし)の 上也みをつくしの巻(まき)に生(うま)れ 薄雲(うすぐも)のまきに紫(むらさき)の上(うへ)の養(やう) 子(し)となり藤(ふぢ)のうら葉(は)の巻 に東宮(とうぐう)の女御(にようご)に参(まゐ)りて皇(わう) 子(じ)を御誕生(ごたんぜう)あり御法(みのり)の巻 に中宮(ちうぐう)と成(なり)たまふ此 哥(うた)は 正月 子(ね)の日に明石の上○とし 月をまつに引れてふる人に けふ鴬(うぐひす)のはつねきかせよと よみおこせたる返(かへ)し也心ははや くより引(ひき)わかれ人にやしなは れて年(とし)経(ふ)れどもまことの母(はゝ)を 心にわするべきかはわすれは せずといふ心をうぐひすに よせてよめる也 【同 下段】  明石中宮(あかしのちうぐう) ひきわかれ 年(とし)はふれ    ども  鴬(うぐひす)の すだち   し 松(まつ)の根(ね)を わす  れ め  や

現代語訳

【右丁 上段】 夕顔の女房である。夕顔が亡くなった後、源氏の御方に仕えた。この歌は玉葛の行方を知るために初瀬に参詣し、そのまま玉葛に巡り合った時に詠んだものである。歌の意味は、この初瀬に祈って尋ねなかったなら、年を経てここで再び巡り合い申し上げることができたでしょうか、ということである。○初瀬川の古川の野辺に二本ある杉、年を経てまたも逢おう二本ある杉、という歌で詠んだ。「たちど」は立っている所のことである。 【同 下段】 右近 二本の 杉の立ちどを 尋ねずば 古川野辺に 君を見ましや 【左丁 上段】 源氏の御娘で、御母は明石の上である。澪標の巻に生まれ、薄雲の巻で紫の上の養子となり、藤裏葉の巻で東宮の女御に参って皇子をご誕生になり、御法の巻で中宮となられた。この歌は正月子の日に明石の上が「年月を松に引かれて経る人に、今日鴬の初音聞かせよ」と詠み送った歌への返歌である。歌の意味は、早くから引き離され人に養われて年を経たけれども、本当の母を心に忘れるべきでしょうか、忘れはしません、という心を鴬に託して詠んだものである。 【同 下段】 明石中宮 引き別れ 年は経れども 鴬の 巣立ちし松の 根を忘れめや

英語訳

【Right Page, Upper Section】 She is a court lady who served Yūgao. After Yūgao's death, she served Genji's household. This poem was composed when she made a pilgrimage to Hatsuse to learn of Tamakazura's whereabouts and there encountered Tamakazura directly. The meaning is: If I had not prayed and searched at this Hatsuse temple, would I have been able to meet you again after all these years? ○ This refers to the poem about "two cedars by the Furukawa fields of Hatsuse River, meeting again after years at the two cedars." "Tachido" means the place where they stand. 【Same, Lower Section】 Ukon Had I not sought the place where two cedars stand, would I have seen you, my lady, in the fields of Furukawa? 【Left Page, Upper Section】 She is Genji's daughter, and her mother is Akashi-no-ue. Born in the "Miotsukushi" chapter, she became the adopted child of Murasaki-no-ue in the "Usugumo" chapter, became the Crown Prince's consort in the "Fuji no Uraba" chapter and gave birth to a prince, and became Empress in the "Minori" chapter. This poem is a reply to one sent by Akashi-no-ue on New Year's Day of the Rat: "To one who has spent years drawn away like pine boughs, let the warbler's first song of today be heard." The meaning is: Though I was separated early and raised by others, and years have passed, should I forget my true mother in my heart? I will not forget - this sentiment is expressed through the warbler metaphor. 【Same, Lower Section】 Akashi Empress Though separated and years have passed, can the warbler forget the roots of the pine from which it fledged?