東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: 学校教材発掘プロジェクト 6

源氏百人一首 - 翻刻

源氏百人一首 - ページ 76

ページ: 76

翻刻

【右丁 上段】 上(かみ)の歌(うた)の返(かへ)し也 心(こゝろ)は優婆塞(うばそくの) 宮(みや)の御子(おんこ)也といふ事(こと)を知(しり)たらば 聊(いさゝか)も外(ほか)へ心(こゝろ)を移(うつ)す事(こと)などは 有(ある)まじき物(もの)を唯(たゞ)ひたちの 介(すけ)がまゝ子(こ)と而已(のみ)聞(きゝ)たるから に思(おも)ひおとして今更(いまさら)残念(ざんねん) 也(なり)といふ心(こゝろ)也 宮城野(みやぎの)のこ萩(はぎ)に 宮(みや)の御子(おんこ)といふ事(こと)をそへたり 宮城野(みやぎの)は陸奥(みちのく)萩(はぎ)の名所(めいしよ)也 【同 下段】  少将(せうしやう) 宮城野(みやぎの)の こはぎが もとゝ しらませば つゆも  こゝろを わかずぞ  あらまし 【左丁 上段】 明石中宮(あかしのちうぐう)の御腹(おんはら)なる一品宮(いつぽんのみや) の女房(にようばう)にて薫(かをる)の思(おも)ひ人(びと)也(なり)此(この) 歌(うた)は浮舟姫君(うきふねのひめぎみ)はかなく成(なり)て 後(のち)薫(かをる)の歎(なげき)甚(はなはだ)しきと【注】とぶ らひたる也 心(こゝろ)は世(よ)の哀(あはれ)を知事(しること) は人並(ひとなみ)におくれず君(きみ)が御歎(おんなげき) をも心(こゝろ)に推量(おしはかり)てはあれども 御(おん)とぶらひなど申(まう)すほどの 人数(ひとかず)にもあらぬ身(み)なれば 心(こゝろ)のみ消(きゆ)ばかりに物(もの)思(おも)ひて 日(ひ)を経(ふ)ると也 【同 下段】  小宰相君(こざいしやうのきみ) あはれしる  心(こゝろ)は人(ひと)   に おくれねど かずならぬ   身(み)に きえつゝぞ   ふる 【注 字面をよく見ると「を」の上部が欠損した形に見え、文意からも「を」の方がしっくりくる。】

現代語訳

【右丁 上段】 上の歌への返歌である。歌の心は、優婆塞宮の御子であることを知っていたならば、少しも他へ心を移すことなどはあるはずがないものを、ただ常陸介の継子とだけ聞いていたために軽く考えて、今更残念であるという心である。宮城野の小萩に宮の御子ということを重ねている。宮城野は陸奥の萩の名所である。 【同 下段】 少将 宮城野の 小萩が 本と 知らせば 露も 心を 分かずぞ あらまし 【左丁 上段】 明石中宮の御腹である一品宮の女房で、薫の思い人である。この歌は浮舟姫君が亡くなった後、薫の嘆きがひどいのを慰問したものである。歌の心は、世の哀れを知ることは人並みに劣らず、君の御嘆きも心に推し量ってはいるけれども、お慰めなど申し上げるほどの身分でもない身なので、心ばかりが消え入るように物思いして日を過ごしているということである。 【同 下段】 小宰相君 哀れ知る 心は人に 劣れねど 数ならぬ 身に 消えつつぞ 経る

英語訳

【Right Page, Upper Section】 This is a reply to the previous poem. The heart of the poem is: "If I had known she was a child of Ubasoku no Miya, I would never have shifted my heart elsewhere. But having only heard she was Hitachi no Suke's stepdaughter, I thought lightly of her, and now I deeply regret it." The poem associates "ko-hagi" (small bush clover) of Miyagino with being a child of the Prince. Miyagino is a famous place for bush clover in Michinoku. 【Same, Lower Section】 Shōshō If I had known the small bush clover of Miyagino was of noble root, the dew too would not have divided its heart 【Left Page, Upper Section】 She is a court lady serving Ipponnomiya (who was born to Akashi Chūgū) and Kaoru's beloved. This poem was composed to console Kaoru when his grief was severe after Princess Ukifune's death. The heart of the poem is: "Though my understanding of worldly sorrow is not inferior to others, and I can sympathize with your grief in my heart, I am not of sufficient rank to offer proper consolation, so I spend my days with my heart alone consuming itself in melancholy." 【Same, Lower Section】 Kozaishō no Kimi Though my heart that knows sorrow is not inferior to others, in this body of no account I pass time fading away