東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: 学校教材発掘プロジェクト 6

源氏百人一首 - 翻刻

源氏百人一首 - ページ 77

ページ: 77

翻刻

【右丁 上段】 同宮(おなじみや)の女房(にようばう)也 此(このうた)は女房(にようばう) どち物語(ものがたり)して居(ゐ)たる所(ところ)へ 薫(かをる)のより来(き)てたはふれに ○女郎花(をみなべし)乱(みだ)るゝ野辺(のべ)にま じるとも露(つゆ)のあだ名(な)をわれ にかけめやとは詠(よみ)かけられたる 返(かへ)し也 心(こゝろ)は女(をんな)はあだなる物(もの)の やうに名(な)に立(たち)てこそあれども 一通(ひとゝほ)りの男(をとこ)に心(こゝろ)を乱(みだ)すもの かはみだす物(もの)にあらずといふ心(こゝろ) を女郎花(をみなべし)の露(つゆ)によそへて いへる也 【同 下段 左から読む】      する   みだれやは     露(つゆ)に  なべての   女郎花(をみなべし)  あだなれ 名(な)こそ  いへば 花(はな)と 一品宮中将君(いつぽんのみやのちうじやうのきみ) 【左丁 上段】 おなじ宮(みや)の女房(にようばう)にて上(かみ)と おなじ時(とき)によめる歌(うた)なり心(こゝろ)は さやうに口清(くちぎよ)くのたまへども 猶(なほ)さかりの色(いろ)にはこゝろの 移(うつ)る物(もの)かうつらぬものか女(をんな)の 中(なか)に宿(やど)りして自身(じしん)を試(こゝろみ)給(たま)へ と也 是(これ)も薫(かをる)の歌(うた)に答(こた)へた る也 【同 下段】  弁御許(べんのおもと) 旅寐(たびね)  して 猶(なほ)こゝろ   みよ をみなべ    し 盛(さかり)のいろ    に うつり  うつらず

現代語訳

【右丁 上段】 同じ宮の女房である。この歌は女房同士で物語をして座っていた所へ薫がやって来て、戯れに「女郎花乱るる野辺に交じるとも露のあだ名を我にかけめや」と詠みかけられたことへの返歌である。歌の心は、女は浮気なもののように評判に立ってはいるけれども、普通の男に心を乱すものだろうか、いや乱すものではないという心を、女郎花の露に託して言ったものである。 【同 下段】 一品宮中将君 花と 言えば 名こそ あだなれ 女郎花 なべての 露に 乱れやは する 【左丁 上段】 同じ宮の女房で、上の歌と同じ時に詠んだ歌である。歌の心は、そのように口では清らかにおっしゃるけれども、やはり盛りの美しさには心が移るものか移らないものか、女の中に宿って自分自身を試してみなさい、ということである。これも薫の歌に答えたものである。 【同 下段】 弁御許 旅寝 して なお心 見よ 女郎花 盛りの色に 移り 移らず

英語訳

【Right Page, Upper Section】 She is also a court lady of the same Prince. This poem is a reply to Kaoru, who came upon court ladies conversing together and playfully composed: "Even if I were to mingle in the field where ominaeshi (maidenflowers) are in disarray, would I bring upon myself a reputation for fickleness?" The heart of the poem is: "Though women have a reputation for being fickle, would I really lose my composure over an ordinary man? No, I would not." She expresses this sentiment through the metaphor of dew on the maidenflowers. 【Same, Lower Section】 Ipponnomiya no Chūjō no Kimi Though the flower is said to have a name for fickleness, would the maidenflower truly be disturbed by ordinary dew? 【Left Page, Upper Section】 She is a court lady of the same Prince, and this poem was composed at the same time as the previous one. The heart of the poem is: "Though you speak so purely with your words, would your heart truly be moved or not by the beauty in full bloom? Lodge yourself among women and test yourself." This is also a reply to Kaoru's poem. 【Same, Lower Section】 Ben no Omoto Taking lodging as a traveler, still observe your heart— whether it wavers or wavers not at the maidenflower's color in full bloom