翻刻
せしに姫(ひめ)君一人おわしまし。御名を金色(こんじき)姫と申き或(ある)時御 后(きさき)
れいならすして。遂(つい)にはかなくならせ給ふより。又 後后(こうぐわう)を迎(むか)ひ
給ふに。邪見(じやけん)ほういつの人にて。継母(けいぼ)の中のわりなさは。姫君を悪(にく)
みゆへ后の御たくみに仍(よつ)て獅子孔(しゝく)山といふ悪獣(あくじう)おゝきしん山へ
捨(すて)られけるに。あくじうかへつて姫君をらいはいし。一ツの獅子(しゝ)来つ
て。姫君を背負(せおひ)奉り。王城の大 床(ゆか)におろし去(さり)ぬ。后いよ〳〵にく
みて。此度は鷹群(ようぐん)山と言る。鷲(わし)熊(くま)たかの多き山へ捨るに。此山
は四 季(き)をわかたず雪ふる山也。かゝる所に帝よりたかを打(うた)せらる
べき為(ため)に強者(つはもの)をつかわさる。然(しか)るに木の根に。やさしき姫君おわし
ければ。兵士おどろき狩(かり)をやめて都(みやこ)へ姫君を送(おく)り奉るに夫人
いよ〳〵悪みて。其後は遠き島へ流されぬ。彼島は海眼山(かいがんぜん)とて。木
竹 草苔(そうたい)のたぐひなし此島に住(すま)せ給ふに。或時 釣(つり)の小船 悪(あく)風
に放(はな)され此島に至?り。姫君を見奉りて舟にのせ都へ送り斯(かゝ)る由(よし)
をそうもん申しければ公卿(くぎやう)大臣(おゝとみ)日ばんを相つとめけるに。又大王の御 留(る)
主(す)をうかゞひ獄(ごく)人に仰(おふせ)て金銀をとらせ清 涼殿(りやうてん)の庭(にわ)を七尺は【ほ】
らせ。むざんや姫君を生(いき)うずめになさしめ給ふ。大王くわんぎよ有(あつ)て