翻刻
姫君を御尋有けるに誰(たれ)あつて知(しら)ざるよし申上ければ御(お)なげき一方
ならず。日を送りしに或時清涼殿の花 園(その)の庭なか光明を放て
宮中をてらし給ふ。大王あやしみ占(うらなわ)せ給ふに此地下に神人(かみひと)あり七尺
ほつて御らん有べしとそうす。公卿大臣に至る迄おどり下(おり)て忽(たちまち)に地
七尺をほりけるに底中(ていちう)に金色姫まし給ふ。御悦び限(かき)りなく。大
王の仰けるは汝(なんぢ)は世の常(つね)の人にあらず是(これ)しりながらけい母の所(わ)
為(ざ)なるべし此国に於て長くうき目を見せんより。いかなる国へも流
し捨んと思召桑の木のうつほ船を造(つく)り姫君に宝珠(ほうしゆ)を
さつけ。御身には一寸八分の勢至(せいし)ぼさつを守ふくろに掛(かけ)させ給へ
汝(なんぢ)まつたく。仏神の化身なれは仏法流布の国に流れ寄て
衆生をもさいどすべしと彼舟につくりとめ。御涙と共に沖へぞ船を
出させ給へ。大王も御ぐしをおろし法皇とならせ給へ其海辺(かいへん)に桑に
て高殿をいとなみおわしけるに。時の人桑原(くわはらの)院と申き去程に彼
うつほ船はそう波万里をしのぎつゝ。八重のしほ路にたゞよひて
ゆられゆらるゝ身の行末多くの星霜(せいそう)を送り迎ひて此秋津 洲(しゆ)
の東の日本。常陸国筑波根豊浦湊に着(つき)にけり此浦に