翻刻
【右丁】
あま君もねんふつをすゝめ申せは
いきのしたにて十へんはかり申
給ひてまとろむ人のやうにきえ
入給ひぬすけもあま君もこゑを
あけてなきかなしむ事かきりなし
すけ御まくらによりてこはいかにや
これまてつきそひまいらせてくたり
て候へはかへす〳〵かなしき事も御身
のゆへそかしうき事もわすれ
つゝいとけなくわたらせ給ひしとき
よりかけのことく御身にそひたて
まつりてかたときもたちはなれ
まいらせすいまをかきりの火の中
【左丁】
みつのそこまてもをくれさきたゝ
しとこそおもひまいらせ候しかひ
もなく御ひとりをきまいらせんにて
もさふらはす御ともにくしておはし
ませのこしをかせ給ふなともたへこ
かれてなくありさまこれもたす
かるへしともみえすあるしのあま
君あな心うやいかゝしたてまつ
らんと二人の人をかゝへてなき
かなしむ事かきりなし
現代語訳
【右丁】
尼君も念仏をお勧め申し上げると、息の下で十遍ほど唱えられて、まどろむ人のように息絶えてしまわれた。介も尼君も声を上げて泣き悲しむことは限りがない。介は御枕元に寄って「これはどうしたことでしょうか。これまでお側にお仕えして参りましたので、返す返すも悲しいことも、あなた様のためでございます。つらいことも忘れて、幼くていらっしゃった時から、影のようにお側にお仕え申し上げて、片時もお離れ申し上げることなく、今を最期の火の中、
【左丁】
水の底までもお供して、遅れ先立つことなどあろうはずもないと思って参りましたのに、甲斐もなくお一人でお旅立ちになるわけでもございませんし、お供につれて行ってください。お残しになるな」などと堪えこらえて泣く様子、これも助かるはずもないと見える。主人の尼君は「ああ、心苦しいことよ。どうして差し上げればよいのか」と二人の人を抱えて泣き悲しむことは限りがない。
英語訳
【Right page】
The nun also encouraged her to recite the nembutsu, and she chanted about ten times under her breath, then passed away peacefully like someone falling asleep. Both Suke and the nun raised their voices in endless grief and lamentation. Suke approached the pillow and said, "What is this? I have served faithfully by your side until now, so this deeply sorrowful matter is all for your sake. Forgetting all hardships, from the time when you were but a child, I have served you like a shadow, never leaving your side even for a moment. Even into the final flames,
【Left page】
even to the bottom of the waters, I thought I would accompany you, never being left behind or going ahead." Yet it was meaningless - "I cannot let you depart alone. Please take me with you as your companion. Do not leave me behind," she wept, barely able to contain herself. This too seemed beyond help. The nun, her mistress, cried "Oh, how heartbreaking! What shall I do?" as she held both women, grieving endlessly.