翻刻
【右丁】
肝要(かんえう)ならんと。酒樽(さかだる)のほしをさしたる一言(いちごん)は。
げに五穀方(ごこくがた)の名酒(めいしゆ)やと。燗(かん)ぜぬものはなかり
けれ。緑豆(やへなり)顔(かほ)の色(いろ)青(あを)ざめ。にえたつ旨(むね)をおし
しづめ。ぐつ〳〵として居(ゐ)たりしが。是(これ)まで包(つゝみ)し
竹(たけ)の皮(かは)。かう顕(あらは)るゝ上(うへ)からは。破(やぶ)れかぶれと油断(ゆだん)
遠(を)見(み)すまし。諸白(もろはく)が腰(こし)に差(さし)たる呑口(のみぐち)引(ひき)ぬき。
さそくの手裏釼(しゆりけん)うちかくれば。諸白(もろはく)こしろえ。
弓手(ゆんで)にうけたる左(ひだり)きゝ。緑豆(やへなり)餡(あん)に相違(さうい)して。
【左丁】
羊羹堅固(やうかんけんご)の。ねり塀(べい)を。たやすくこしあん。
腹太(はらぶと)の。餅方(もちがた)さして。にえうせけり是(これ)より今(いま)に
いたるまで。小豆(あづき)は飯(めし)にいるれども。緑豆(やへなり)をは飯(めし)に
いれずといひ傳(つた)ふ。又(また)餅(もち)と酒(さけ)との争(あらそ)ひも此時(このとき)
よりぞ初(はじま)りける
第三回
三方(さんぼう)の備(そなへ)も。殕(かび)の破(われ)より崩(くづ)るとかや。されば越谷(こしがや)
大極上餅有(だいごくじやうもちあり)は。安(やす)い相場(さうば)に大利(だいり)を立(たて)。處々(しよ〳〵)の