翻刻
【右丁】
餅白(もちしろ)をかため。名物(めいぶつ)名代(なだい)のもちをかたらひ。飯(まん)
米(ま)天皇(てんわう)を。おしつぶさんと企(くはたで)。其(その)用意(ようい)頻(しきり)なる
所(ところ)。俄(にはか)な臺所(だいところ)さわがしく。今(いま)かたづける飯(めし)の椀(わん)。
あらはれたりと緑豆(やへなり)が。しらせに皆(みな)〳〵仰天(ぎやうてん)し。
しりもちついてあきられば。白玉姫(しらたまひめ)はころび出(いで)。
牡丹餅御前(ぼたもちごぜん)は棚(たな)からおち。ゆめではないかと
泣(なき)給ふ。其時(そのとき)餅有(もちあり)すこしもさわがず。すわり
の餅(もち)のごとくに落(おち)つき。只(たゞ)の饅頭(まんぢゆう)をまねき。
【左丁】
飯(めし)と酒(さけ)との。おさへの大将(たいしやう)に任(にん)じ。蔓掛升(つるかけます)の策(はかりごと)
を授(さづ)け。蒸篭殿(せいろうでん)の廣庭(ひろには)に。雪白(ゆきしろ)となづけ
たる。砂糖(さとう)つき毛(げ)のあら馬(うま)を。口取(くちとり)にひかせ。
下戸(げこ)のたてたる。例(ためし)なし地(ぢ)のくらをおき。
當座(たうざ)のはうびに給(たま)はりけり。さるほどに
只(たゞ)の饅頭(まんちゆう)は。宇治(うぢ)の新茶(しんちや)のせんじを蒙(かうむ)り。
上戸勢(じやうごぜい)のおさへとして。高杯(たかつき)の砦(とりて)にこもり。
群勢(ぐんぜい)催促(さいそく)の切手(きつて)を以(もつて)。所々(しよ〳〵)に名(な)をえし