翻刻
御辺(ごへん)の来られしにそ幸ひなれ速かに温泉を開基(ひらき)し諸
人の助けとなし給ふへし汝われを誰とか思ふ医王善
逝の薬師如来なりゆめ〳〵疑ひなす事なかれ此湯を
開かはもとの如く湯にまへに跡をとゝめて守護すべ
しと言捨(いゝすて)て白雲に打乗(うちのり)て東をさして去給ふ
信連奇異の思ひをなし軈て此湯を開基しけるに葦
原の流より御丈九寸はかりの薬師の尊像を掘出し奉
るこれ昔行基僧正 草創(さうさう)の時みすから彫刻ありて温
泉の本尊とあかめ給ふ御仏ならん不思議なる哉地
中に埋れさせ給ひて二百年の星霜をふると雖も尊像
全くしてすこしも損(そん)ずる事なく現れさせ給ふはあり
難くこそ覚えはんへれとて則一宇を再建し国分山
医王寺と号し本尊守護のため湯本に十二舎を営み
て講中となつけそれより辻小路を通し家造りて貴
賤高下(せんかくげ)の便とし今に連綿繁栄するは医王善逝薬
師如来の恩沢とも云つへし
薬王寺蔵版印