翻刻
《箱:かはらのゆ》
《箱:十五歳 京水筆》
祭礼(まつり)の時 神輿(じんよ)の上に造(つくり)りたる孔雀(くじやく)に
稲穂(いなぼ)を含(ふくま)する事あり此稲穂あたみの
上町の北に住(じう)する百姓平左衛門が田のうちに
て刈(かり)たる稲(いね)の古根より一 茎(けい)を生じて
実(みの)る事毎年 祭礼(さいれい)の時をたがへず一とせ
かれが田に稲をせうぜずいかなる事にかと
人〳〵いぶかりしにかの稲をせうずる田の隣(となり)
に石をつみてたのへだてとする隣(となり)へむきたる
石の間(あいだ)より稲をせうじて神供とせしに
その月のすへに平左衛門が家に不幸(ふかう)ありしが
次のとしは再(ふたゝ)び平左衛門が田よりせうせしとぞ
此一 挙(きよ)に於ても神霊の赫々(かく〳〵)たるをしるべし▲伊豆権現あたみの北十八町
小田原へいたる道のかたはらに鳥居あり走湯山(そうとうざん)東明寺(とうめいじ)と云 別当(べつとう)を般若院(はんにやいん)と而
十二坊あり昔は今よりも広大(こうだい)なりし大社なる事は東鏡(あづまかゞみ)に詳(つまびらか)なり●拾遺(じうい)
●扶木(ふぼく)●松葉(ぜうやう)●歌枕(うたまくら)名寄(なよせ)等に古歌をのせたる旧跡(きうせき)にして神霊(しんれい)のあらたなる事は
普(あまね)く人のしる所也▲古々井(こゝゐ)の社(やしろ)伊豆権現の西北にあり古歌の旧跖(きうせき)也
○寺院
▲大 乗(ぜう)寺 日蓮宗 あたみ上町の西半町にあり此寺に日蓮上人自作の木像
あり伝云上人伊豆へ左遷(させん)の時四十二歳の真像(しんぞう)を刻(きざ)み玉ひしを此寺に伝(つた)ふ又
上人 真跡(しんせき)の曼多羅(まんだら)あり信心の人 拝覧(はいらん)をねがへば許(ゆる)して拝(はい)さしむ
▲海蔵寺《割書:妙心寺|の末》上町の南三町 開山 悟庵(ごあん)和尚中 興(こう)潜渓(せんけい)和尚
▲温泉寺 妙心派 上町の西三町余 伝云 文治五年 頼朝(よりとも)の創構(そうこう)