翻刻
【左側上段】
れたるのみか、《ルビ:西隣|にしとなり》りの盃屋さへ東半分通り圧潰ぶしたる《ルビ:様|さま》《ルビ:実|じつ》
に《ルビ:目|め》も当てられず。
◎家屋水上に浮ぶ 《ルビ:使者|ししゃ》《ルビ:屋|や》《ルビ:橋|はし》の南詰西の《ルビ:袂|たもと》に水中に柱を立てゝ
土台を《ルビ:築|きづ》き《ルビ:建築|けんちく》したる一樓は、以前は《ルビ:猿猴樓|えんこうろう》とて、料理屋を営
み居り今は《ルビ:淡路亭|あはぢてい》と呼びて鮓屋となり居れるが、水中(すゐちう)の柱をば
《ルビ:船虫|ふなむし》《ルビ:水虫|みづむし》などの喰ひ荒らせしのみか、早や《ルビ:年数|ねんすう》《ルビ:久|ひさ》しく成りたる
為め《ルビ:腐朽|ふきう》し居たるものと見え、座敷その侭陥りて水中に《ルビ:浮|うか》べる
様大阪の《ルビ:牡蠣|かき》《ルビ:飯船|めしぶね》に《ルビ:髣髴|はうふつ》たり。
◎水通の負傷者 《ルビ:水通|すいだう》五丁目百四十五番屋敷研師勝間金次郎と
《ルビ:妻|つま》時の両人は同日午後八時過ぎ居宅(きょたく)倒壊(たうくわい)せしも、遁るゝ暇なく
家屋に圧(あつ)せられて切りと救助を乞(こ)ひたれども知(し)るもの無かりし
が九時三十分頃に至(いた)りて始て隣人に見出(みだ)され、種々介抱を加へ
られたる為め、漸(やうや)く蘇生(そせい)したりと。
◎不意に家倒る 小高坂村(こたかさかむら)桜馬場(さくらばゞ)十二番屋敷植木氏控への家屋
は彼の風にも堪(た)へ居りしに翌日午前十一時|頃(ころ)に至り、不意に潰
ぶれたる趣(おもむ)き大風後には間々此の如き事あり、注意(ちうい)すへき事に
こそ。
◎巡査電流に打たる 上島和田の両巡査は暴風(ぼうふう)夜本町五丁目の
派出所に詰居たるに北側(きたかは)なる新道の上にて人の叫(さけ)び声の聞ゆる
にぞ、唯事(たゞごと)ならすと打ち見れば、同所の菓子商中島某方へ引(ひ)き
たる電灯線(でんたうせん)風(かぜ)の為めに切れて、其(その)切口(きれくち)より薄の如き火花を発し
今にも其の家に燃え移(うつ)らんとなし居るにぞ大ひに驚(おどろ)き中島氏は
逸早(いちはや)く其場に駆附け誤つて落(お)ちたる電線を踏(ふ)み忽ち電流に打(う)た
れて其場に卒倒(そつたう)し、和田氏も同様(どうやう)触線(しょくせん)して人事不省となりたる
が幸に両氏とも二|時間(じかん)ばかりを経て蘇生(そせい)せしが職務の為(た)め身を
殺さんとせし両氏は、実に人民(じんみん)保護者(ほごしゃ)の鑑みとこそいふべけれ。
◎営所の被害 第四十四連隊営所は、新築(しんちく)の六号営舎を全倒し
【左側下段】
其外縫靴工場傾斜し、炊事場(すゐじば)の屋根を取られ、哨舎は飛(と)んで所
在知らず、各舎窓(かくしやさう)の硝子(がらす)は尽く破られ、酒保は全く破壊(はくわい)し、一
号より五号に至るまでの兵舎の天井(てんじやう)陥落(かんらく)せしなと被害頗る多
かりき。
●県下各郡被害の状況
今回(こんくわい)の被害(ひがい)は土佐郡及び高知市に於て最も多く、長岡郡(ながをかごほり)に於て
稍多く、香美郡(かみごほり)に於ては即ち多少被害の度(ど)を減(げん)じ、高知市を中
心として、東方(とうほう)に移るに従って、漸々(ぜん〴〵)進下(しんか)せるの感あり、今其
状況の一斑(いつぱん)を左に記さむ。
◎土佐郡の被害(ひがい)は左(さ)の如(ごと)し。
△十六村字宗安寺 家屋全倒三戸○同半倒一戸○納屋全倒四戸
○同村字梅木家屋全倒二戸○同半倒一戸○同村字中追家屋全倒一
戸○同大破一戸○同村字行川家屋全倒三戸○同半倒三戸○納屋
全倒三戸○同半倒三戸△江ノ口村字百軒町家屋全倒五戸○同半
倒三戸○物置納屋全倒二戸○便所全倒一戸○同村字蔵屋式家屋
全倒十戸○同半倒二戸○納屋全倒一戸○同村字藪端家屋全倒六
戸○納屋全倒二戸○同村字愛宕町家屋全倒三戸○同半倒三戸○
納屋全倒一戸○便所同一戸○同村字中水通家屋全倒六戸○納屋
同一戸○同村田端家屋全倒三戸○納屋同一戸○同村字大川筋家
屋全倒三戸○物置同三戸○家屋半倒一戸○同村字高田家屋全倒
三戸○納屋同一戸○同村字小川淵家屋全倒一戸○納屋同一戸○
同村字丑之助家屋全倒二戸○物置同四戸○便所同二戸○同村字
比島家屋全倒四戸○納屋同二戸○圧死馬一頭○負傷女二人○大川
筋倒門三箇○倒塀四十三ヶ所百六十六間○丑之助倒塀二ヶ所六
間○比島同二ヶ所十六間○中水通同三ヶ所十二間○愛宕町同三
ヶ所八間○百軒町同八ヶ所三十間○小川淵同九ヶ所三十二間○
丑之助川口浸水家屋十二戸○大川筋同二十戸△一宮村家屋全倒