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校異源氏物語. - 翻刻

校異源氏物語. - ページ 23

ページ: 23

翻刻

【右丁】      きりつほ           六 【本文】 なけれは事ある時はなをより所なく心ほそけ也さきの世にも御ちきりやふかか 1 りけむ世になくきよらなるたまのをのこみこさへうまれ給ひぬいつしかと心も 2 となからせ給ていそきまいらせて御覧するにめつらかなるちこの御かたちなり 3 一のみこは右大臣の女御の御はらにてよせをもくうたかひなきまうけの君と世 4 にもてかしつきゝこゆれとこの御にほひにはならひ給へくもあらさりけれはお 5 ほかたのやむことなき御おもひにてこの君をはわたくし物におもほしかしつき 6 給事かきりなしはしめよりをしなへてのうへ宮つかへし給へきゝはにはあらさ 7 りきおほえいとやむことなく上すめかしけれとわりなくまつはさせ給あまりに 8 さるへき御あそひのおり〳〵なにことにもゆへあることのふし〳〵にはまつま 9 うのほらせ給ある時にはおほとのこもりすくしてやかてさふらはせ給ひなとあ 10 なかちにおまへさらすもてなさせ給しほとにをのつからかろき方にもみえしを 11 このみこうまれ給てのちはいと心ことにおもほしをきてたれは坊にもようせす 12 はこのみこのゐ給へきなめりと一のみこの女御はおほしうたかへり人よりさき 13 にまいり給てやむことなき御おもひなへてならすみこたちなともおはしませは 14 【注釈上段】 [青表紙本] ➊事ある時―ことゝある時肖大 ➋うま  れ―むまれ大 ❻おもほし―おほゝし肖三 ❼はし めより―はゝ君はしめより肖 ❽まつはさせ―まつは さ( |◦)せ大 ❿のほらせ―のほ り( |──)(ら)せ大 ❿すくして ―過して大 ❿さふらはせ―まいらせ( |────────)(さふらはせ) 大 ⓬うまれ―むまれ肖三大 ⓬おもほし―お も( |◦)ほし 池 ⓮なへてならす―なへてならねは横 ⓮なとも― とも横 [河内本] ➊事ある―ことゝある宮尾為大―事とゝあ  る平 ➋世になく―よにたくひなく河 ➋心もとな からせ給て―心もとなかり河 ❸御かたち―おほむか ほかたち河 ❻御おもひにて―おほむ思はかりにて宮 尾為平―おほんおほえはかりにて大 ❼はしめより― 【注釈中段】 はゝ君ははしめより河 ❼うへ宮つかへし給へき―う へみやつかひなとし給へき宮―うへみやつかへなとし たまふへき尾為平大 ❾なにことにも―なに事も河 ❿ひなとあなかちに…次頁9いといたう思ひ―落丁平 ⓭このみこの―このみこ宮尾―このきみ大 ⓭一のみ こ―一の宮河 [別本] ➊事ある―事とある御陽麦 ➊なを―ナシ国  ➋なく―たくいなく御麦 ➋きよら―けうら国 ➋ をのこみこ―をとこみこ陽 ➋給ひぬ―ナシ国 ➋い つしかと―ナシ国 ➋心もとなからせ給て―心もとな かり御―給て国―心もとなかり給麦 ❸まいらせて― まいらせ給て御 ❸御かたち―御かほ御―御かほつき 麦 ❹一のみこは―一のみこ国 ❹右大臣の女御―右 大将殿の女御御―右大臣とのゝ女御陽―右大とのゝ女 御国 ❹よせ―世のおほえ陽―よに心よせ国 ❹世に ―よ人陽 ❺もてかしつきゝこうれと―もてかしつき 【注釈下段】 こゆれと御―もてなしかしつき聞ゆれと麦 ❺へくも ―へく御 ❺おほかたの―おほかた国 ❻御おもひ― 御思いはかり御国麦―御もてなしはかり陽 ❻君をは ―宮をは陽―君をそ国 ❻わたくし物に―わたくし物 にゆゝしうかなしきものに国―わたくしの物に麦 ❻ かしつき給―かしつける国 ❼はしめより―はゝ君は はしめより御陽麦―はゝ君もはしめより国 ❼をしな へての―をしなへて陽麦 ❼うへ宮つかへ―うゑみや つかえなと御麦―うちみやつかへ陽 ❼ゝ(キ)はには ―にも陽―ゝ(キ)はにも国―はには麦 ❽上すめかし けれと―上すめかしくて陽 ❾おり〳〵―をり〳〵の 御―をり〳〵をはしめ陽―をり国 ❾なにことにも― なにことも御麦―なにことにつけても国 ❾ゆへある ―ゆへありよし〳〵しき陽国 ❾ことのふし〳〵―か た陽―こと国 ❾まつ―かならす〳〵御―かならす陽 国 ❾まうおほらせ―さうのほらせ御 ❿時には―時 は国麦 ❿さふらはせ―とゝめさせ陽―候らせ国 ❿ なと―なに御―ほと麦 ⓫給し―給麦 ⓫方にも―か たも国 ⓬のちは―のちには陽 ⓬いと―ナシ陽―い とゝ国 ⓬をきてたれは―おきてたるけしきなれは陽 ⓬坊―とう宮陽―はら国 ⓭このみこの―これを陽― このきみを国―此御子麦 ⓭ゐ給へき―すゑたてまつ り給へき陽国 ⓭なめりと―なめりとさゝめく人〳〵 あるを陽 ⓭一のみこ―一宮御陽麦⓭おほしうたかへ り―あさましくむねつふれてさる事もやとおほしうた かへり陽―めさましうむねつふれてさるともやとおほ しうたかへり国 ⓭さきにまいり給て―ことにまいり て国 ⓮やむことなき―やんことなきかたの陽 ⓮御 おもひ―御おほえ陽―御おもひも国 ⓮なとも―もあ また陽―なともおほく国 【左丁】 【本文】 この御方の御いさめをのみそ猶わつらはしう心くるしう思ひきこえさせ給ける 1 かしこき御かけをはたのみきこえなからおとしめきすをもとめ給人はおほくわ 2 か身はかよはく物はかなきありさまにて中〳〵なる物思ひをそし給御つほねは 3 きりつほ也あまたの御方〳〵をすきさせ給てひまなき御まへわたりに人の御心 4 をつくし給もけにことはりとみえたりまうのほりたまふにもあまりうちしきる 5 おり〳〵はうちはしわたとのゝこゝかしこのみちにあやしきわさをしつゝ御を 6 くりむかへの人のきぬのすそたえかたくまさなきこともあり又ある時にはえさ 7 らぬめたうのとをさしこめこなたかなた心をあはせてはしたなめわつらはせ給 8 時もおほかり事にふれてかすしらすくるしきことのみまされはいといたう思ひ 9 わひたるをいとゝあはれと御覧して後凉殿に本よりさふらひ給更衣のさうしを 10 ほかにうつさせ給てうへつほねにたまはすその怨ましてやらむ方なしこのみこ 11 みつになり給年御はかまきのこと一の宮のたてまつりしにおとらすくらつかさ 12 おさめ殿のものをつくしていみしうせさせ給それにつけても世のそしりのみお 13 ほかれとこのみこのおよすけもておはする御かたち心はへありかたくめつらし 14 【注釈上段】 [青表紙本] ➊御いさめ―いさめ大 ➊わつらはしう  ―わつらはしく横肖三 ➋御かけをは―御かけを大 ❹給て―給つゝ肖三 ❺ことはりと―ことはりとそ横 ❻わたとのゝ―渡殿肖三 ❼たえかたく―たえかたう 肖三 ❼ことも―ことゝも肖三 ⓬たてまつりしにお とらす―たてまつりしにも お( |◦)とらす横 ⓬くらつかさ ―くら( |◦ ◦  )つかさ池 ⓭いみしう―いいみしく横 [河内本] ➊心くるしう―心くるしき物に河 ❸御つ  ほね―おほむさうし河 ❻おり〳〵は―おりは河 ❻わたとのゝ―わたとの河 ❻あやしきわさ―あやわ さ大 ❼きぬ―もきぬ河 ❼まさなきこともあり―さ かなきことゝもおほかり河 ❼又ある時には―あると きは河 ❽めたうのとをさしこめ―みちのとゝもをさ 【注釈中段】 しかためなと河 ❽こなたかなた―こなたあなたに河 ❽わつらはせ―わつらはし河 ⓬たてまつりしにおと らす―き給しにをとるけちめなく河 ⓭いみしうせさ せ給―いみしききよらをつくさせたまふ河 ⓮めつら しきまてみえたまふを―めつらかなるまてみえたまへ は河 [別本] ➊御いさめを―いさめ国 ➊のみそ…給ける  ―そすこしわつらはしき事にはおほしましける様 ➊猶―ナシ国 ➊心くるしう―心くるしきものに国麦 ➊させ―ナシ国 ➋御かけをは―御かけを陽国 ➋き こえ―きこえさせ陽―きこえさせ給国 ➋きすを―き す国 ➋人は―人〳〵は陽―人〳〵国―人麦 ➋おほ く―おほかるに陽 ❸かよはく―いとかよわく御―か よはて国 ❸物はかなき―はかなき陽国 ❸物思ひを そ―もの思ひを陽―物おもひをのみ国―物思そ麦 ❸ し給―し給人そいと心くるしけなる陽―し給人そ心く 【注釈下段】 るしけなる国 ❸御つほね―御さうし麦 ❹きりつほ 也―きりつほなりけり陽―きりつほになんありける陽 ❹御方〳〵―御かた麦 ❹給て―給つゝ別 ❹ひまな き―たくひなき麦 ❹人の―おほくの人〳〵の陽 ❹ 御心―心国麦 ❺ことはり―ナシ国 ❺うちしきる― うちしきりたる国 ❻おり〳〵―をり御麦―時陽国 ❻うちはしわたとのゝこゝかしこのみちに―こゝかし このめんたうゝちはしわた殿なとやうのみちにも陽 ❻わたとのゝ―わた殿御麦―わた殿ゝほと国 ❻わた ―わさとも国 ❻しつゝ―しをきつゝ陽 ❻御をくり むかへ―御むかへおくり国 ❼きぬ―もきぬ御陽国 ❼すそ―すそも国麦 ❼ことも―ことゝも御麦―事と もさへ陽 ❼あり―おほかり御国麦 ❼又―ナシ御陽 麦 ❼時には―ときは国麦 ❽めたうのとを―みちの とを御陽―めたうつちとをも国 ❽さしこめ―さしこ めなと御―さしかためなと陽麦―さし国 ❽こなたか なた―こなたかなたに御―こなたかなたの国 ❽心を ―御心を陽―心国 ❽わつらはせ―わつらはし別 ❾ 時も―おり〳〵国 ❾おほかり―あり陽国 ❾かすし らすくるしきことのみまされは―くるしきことのみか すしらすなりまされは陽 ❾くるしきこと―くるしさ 国 ❾いと―なにと御 ❾思ひわひたる―よを思ひ わひたる陽―おもひわたる国 ❿いとゝあはれと御覧 して―いとあはれなるものにおほしめして国 ❿本よ り―もと陽 ❿さうし―つほね陽―御つほね国 ⓫う へつほね―うへの御つほね国 ⓫その怨まして―なの うらみまして御―これにつけてもきゝにくき事ともお ほくてましてこのうらみ陽 ⓫やらむ方―やるかた陽 国 ⓫みこ―きみの国 ⓬なり給―なる国 ⓬こと― 事あり陽 ⓬一の宮―一のみこ陽国 ⓬おとらす―け をとらす御―をとるけちめなく陽国麦 ⓭いみしう― いみしきゝよらを陽麦 ⓭せさせ―つくらせ麦 ⓭給 ―たまへは陽 ⓭それ―これ国 ⓭世の―かの御―又 世の陽 ⓭のみ―ナシ陽 ⓮みこの―きみの国―御子 麦 ⓮およすけ―おかすけ御―やう〳〵をよすけ陽 ⓮もて―ナシ陽 ⓮心はへ―人こゑ御―ありさまよに 陽 ⓮えつらしき―めつらかなる陽麦      きりつほ           七

現代語訳

【右丁】 【本文】 なかったので、何か事件がある時は、なおさら頼りどころがなく心細いのである。前世にも深いご縁があったのであろうか、この世にまたとなく美しい男の御子までお生まれになった。帝は、早く見たいと心もとなくお思いになって、急いで参内させて御覧になると、珍しいほど美しい御子のお顔立ちである。第一皇子は右大臣の女御の御腹で、世間の期待も疑いない皇太子と世間でも大切に申し上げているけれど、この御子の美しさには並ぶべくもなかったので、帝は格別の愛情で、この君を私的に愛しくお思いになり、お世話なさることが限りない。最初から並々でない身分で宮仕えなさるべき出身ではなかったが、帝のご寵愛がたいそう格別で、最上級に美しく見えるけれど、あまりにも帝がおそばから離さないため、しかるべき御遊びの折々、何事にも由緒あることの節々には、まず真っ先に参上させなさる。ある時には御殿にお籠もりになって過ごして、そのまま宮中にお泊まりになるなど、始終帝のおそばを離れないようになさったほどに、自然と軽い身分の方にも見えたのを、この皇子がお生まれになってからは、たいそう特別にお思いになって、「誰が皇太子になろうか。この皇子がお就きになるだろう」と、第一皇子の女御は、胸が痛く思い悩まれ、人より先に参内なさって、格別のご寵愛を普通に受け、皇子たちなどもいらっしゃるので、 【左丁】 【本文】 この御方の御忠告ばかりを、やはり煩わしく心苦しくお思い申し上げになった。畏れ多い帝のご庇護は頼み申し上げながらも、貶めや中傷を求める人々は多く、我が身は弱々しく頼りない有様で、中途半端な物思いをなさる。御局は桐壺である。多くの御方々を通り越して、絶え間ない御前通りに、人々がご機嫌取りをなさるのも、もっともなことと見えた。参上なさるにも、あまりに頻繁な折々は、打橋や渡殿のあちこちの通り道で、ひどい仕業をして、お送り迎えの人の衣の裾を破ったり、情けないこともあり、またある時には、嫌がらせに御簾の戸などを閉じ込めて、あちこち申し合わせて困らせ申し上げることも多かった。事につけて、数知れず辛いことばかりが増すので、たいそう思い悩んでいるのを、ますます不憫とご覧になって、後涼殿に元からいらっしゃった更衣の御局を他に移させなさって、上の局をお与えになる。その恨みは行き場がない。この皇子が三歳におなりになった年、御袴着のこと、第一皇子に行った時に劣らず、蔵司を総動員して、殿中の物を尽くして、素晴らしく行わせなさる。それにつけても世間の非難ばかりが多くなるけれど、この皇子の成長したお顔立ちや性格が類稀で珍しく、

英語訳

【Right Page】 【Main Text】 there was no such support, so when any incident arose, she felt all the more helpless and anxious. Perhaps their bond from previous lives was deep - even a son of unparalleled beauty in this world was born to her. The emperor, eager to see the child, had him brought to court in haste and gazed upon him to find the child's features remarkably beautiful. The First Prince was born to the Right Minister's Imperial Consort, regarded by the world as the undoubted heir apparent, but he could not compare to this child's radiance. The emperor, with extraordinary affection, cherished this prince as his private treasure, lavishing care upon him without limit. Though she was not originally of the rank to serve at court in such high capacity, the emperor's favor was so exceptional and she appeared so supremely beautiful that he kept her constantly at his side. At appropriate entertainments and ceremonial occasions, he would have her attend first of all. Sometimes he would remain secluded in his chambers and have her stay overnight at the palace, keeping her always near him to such an extent that she naturally came to seem like a person of lesser standing. After this prince was born, the emperor regarded him with special distinction, thinking "Who shall be crown prince? This prince should be the one." The First Prince's mother, the Imperial Consort, felt her heart break with worry. Having entered service before others and receiving exceptional favor as a matter of course, with princes of her own, 【Left Page】 【Main Text】 she found only this lady's admonishments troublesome and painful to her heart. Though she relied upon the emperor's august protection, there were many who sought to belittle and slander her. Her own person was frail and insubstantial, burdened with incomplete sorrows. Her chambers were in the Kiritsubo. As she was given precedence over many other consorts in the constant coming and going before the emperor, it seemed natural that people would exert themselves to curry favor. Even when she went to attend him, on the frequent occasions when others would commit spiteful acts along the corridors and galleries - tearing the hems of her attendants' robes or other shameful deeds - and at times maliciously blocking the sliding doors and screens, conspiring to harass her from all sides, such incidents were numerous. As countless painful experiences accumulated, she fell into deep distress. The emperor, seeing this as increasingly pitiable, moved the court lady who had originally resided in the Kōryōden to other quarters and granted her the upper chambers. The resentment this caused had no outlet. In the year this prince turned three, for his hakama ceremony, the emperor spared no expense from the imperial treasury, rivaling what had been done for the First Prince. This only increased the world's criticism, yet as the prince grew, his appearance and character proved extraordinary and wondrous.