東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: コレクション 2

撫育草 - 翻刻

撫育草 - ページ 36

ページ: 36

翻刻

【右頁上段】 孟子曰(もうしのいはく)《振り仮名:以_レ力|ちからをもつて》《振り仮名:服_レ 人|ひとをふくする》者(ものは) 《振り仮名:非_二心-服_一|こゝろふくするにあらす》《振り仮名:以_レ徳|とくをもつて》《振り仮名:服_レ 人|ひとをふくする》者(ものは) 中心(ちうしん)《振り仮名:説-而|よろこんで》《振り仮名:誠-服|まことにふくす》也 是(これ)は孟子(もうし)の御語(おんことば)にて 力勢(ちからいきほ)ひを以(もつ)て人(ひと)を帰服(きぶく) すれば人 其勢(そのいきほ)ひにおそ れしたがふといへども実(じつ) 心(しん)よりきふくするにあら ず又(また)心徳(しんとく)をもつてすれば 人(ひと)真実(しんじつ)にありがたく思(おも)ひ て心(こゝろ)よりきぶくする也と のたまへり 世(よ)の主(あるじ)たる人 親(おや)たる人 我(わか) 【左頁上段】 家来(けらい)や我子(わかこ)を帰(き)ぶくいた させんとおもひたまはゞ 先(まづ)我身(わがみ)持(もち)をよくし真実(しんじつ) に家来(けらい)するや子(こ)をば愛(あい)し いつくしみよき道(みち)に至(いた)らしめ むとおもひ給ふこゝろつよ ければをのづから其(その)実心(じつしん)に 帰服(きふく)し主人(しゆじん)親(おや)を大切(たいせつ)大(だい) 事(じ)に敬(うやま)ひいたすものなり 又(また)勢(いきほ)ひ威光(ゐくはう)のみにてきび 敷(しく)するときはこわがりおそ るといへども内心(ないしん)はきふく せずしてうらむる物なれば 唯々(ただ〳〵)徳(とく)を以(もつ)てすへき事(こと)也 【右頁下段】 あしきたはむれあしき友(とも) あしき本(ほん)抔(など)はかりにもかたく 見せ申まじく候事 〇 幼稚(ようち)の者(もの)を養育(そだつ)るは 威厳(きびしく)するがよろ敷(しき)と申 人の候これも一理(いり)ある尤(もつとも)の 【左頁下段】 事(こと)に候へ共(ども)やはり温和(やはらか)に そだつる方(かた)にしくはなしと 存候 其故(そのゆへ)は童(わらんべ)は知(ち)にくらき ものに候へば親(おや)たる人(ひと)あまり 厳(きびし)ければ恐(おそ)れ親(した)しまず してよしあし共(とも)にかくし

現代語訳

【右頁上段】 孟子が言うには「力を以て人を服従させる者は、心から服従させるのではない。徳を以て人を服従させる者は、中心から喜んで真に服従する」と。 これは孟子の御言葉で、力勢いを以て人を帰服させれば、人はその勢いに恐れて従うといっても、真心より帰服するのではない。また心徳をもってすれば、人は真実にありがたく思って心より帰服するのだと仰られた。 世の主たる人、親たる人で、我が 【左頁上段】 家来や我が子を帰服させようと思われるならば、まず我が身持ちをよくし、真実に家来や子を愛し慈しみ、よき道に至らせようと思われる心が強ければ、自然とその真心に帰服し、主人・親を大切大事に敬い致すものである。 また勢い威光のみで厳しくする時は、怖がり恐れるといっても内心は帰服せずして恨むものであるから、ただただ徳を以てすべきことである。 【右頁下段】 悪い戯れ、悪い友、悪い本などは、仮にも堅く見せてはならないことである。 ○ 幼い者を養育するのは威厳をもって厳しくするのがよろしいと申す人がいる。これも一理ある尤もな 【左頁下段】 ことではあるが、やはり温和に育てる方に如くはないと存じます。その故は、子どもは知恵に暗いものであるから、親たる人があまり厳しければ恐れ親しまずして、善し悪し共に隠し

英語訳

【Right Page, Upper Section】 Mencius said: "Those who subdue people through force do not truly subdue their hearts. Those who subdue people through virtue make them joyfully and sincerely submit from their very core." This is the teaching of Mencius: if you make people submit through force and power, people may follow out of fear of that power, but they do not truly submit from their hearts. However, if you use moral virtue, people will feel genuinely grateful and submit from their hearts. Those who are masters of the world, those who are parents, if they wish their 【Left Page, Upper Section】 retainers or children to submit to them, they should first improve their own conduct, truly love and cherish their retainers and children, and have a strong desire to lead them to the good path. Then naturally, people will submit to that sincere heart and respectfully honor their master and parents as precious and important. Also, when one governs strictly through power and authority alone, people may fear and be afraid, but inwardly they do not submit and instead harbor resentment. Therefore, one should rely solely on virtue. 【Right Page, Lower Section】 Bad play, bad friends, bad books, and such should never be shown to children, not even temporarily. ○ Some people say that raising young children should be done with stern authority. This is also a reasonable and valid 【Left Page, Lower Section】 point, but I believe that raising them gently is still superior. The reason is that children are lacking in wisdom, so if parents are too strict, they will be afraid and not feel close to their parents, hiding both good and bad things