翻刻
【右頁上】
賢者(けんしや)をもとめて師(し)と
うやまひあがめたまひて
少(すこ)しも臣下(しんか)のごとくはあし
らいたまはざりしとこそ
今(いま)汝(なんぢ)が友(とも)とする人(ひと)はみな
汝(なんぢ)をうやまひしたがふ人(ひと)
なりかゝる輩(ともがら)と交(まじは)らば
何(なに)もかも我(われ)まさりたり
とおもひよろづにわれを
足(た)れりと心得(こゝろゑ)て日々(ひゞ)に
我慢(がまん)つのりて徳(とく)をうし
なふべしといましめ給ひし
かば文伯(ぶんはく)げにもと心付(こゝろつき)て
これより我(われ)にまされる
【左頁上】
人(ひと)を友(とも)として交(まじは)りければ
其(その)徳(とく)の正(たゞ)しく終(つい)にほまれ
を世(よ)にあらはしけるとなん
世(よ)の親(おや)たる人(ひと)は此(この)文伯(ぶんはく)が母(はゝ)
のごとく善友(ぜんやう)をゑらびて
子(こ)の友(とも)となすべしまた
子(こ)たる者(もの)は文伯(ぶんはく)が母(はゝ)の教(をしへ)に
したがふ事(こと)のすみやかなる
にならひてあしき友(とも)を
さりよき友(とも)に随(したが)ひて身(み)を
おさめ孝(かう)を立(たつ)べし
《振り仮名:無_レ友_二不_レ如_レ已者|おのれにしかざるものをともとする事なかれ》【一点脱】
過則(あやまつては)《振り仮名:勿_レ憚_レ改|あらたむることなかれ》
【右頁下】
一 男女(なんによ)の行儀(ぎやうぎ)をしらず大口(おゝぐち)をいふ事
一 家職(かしよく)をおしゆるに性根(しやうね)を
入(い)れず心(こゝろ)をうすく用(もちゆ)る事
一 手習(てならひ)読物(よみもの)算術(さんじゆつ)の稽古(けいこ)
に怠(おこた)り不精(ぶせい)なる事
一 火(ひ)なぶるをなし火(ひ)の元(もと)
をそまつにする事
此(この)十弐(じうに)ヶ条(でう)童(わらんべ)の心得(こゝろゑ)可守(まもるべき)
【左頁下】
之(の)大事(だいじ)に候へばかたく申 付(つけ)守(まも)らせ
可申候事
右之 外(ほか)幼稚(ようち)の者(もの)を撫育(ぶいく)する
の心得(こゝろゑ)あまた有(あり)といへ共(ども)愚老(ぐろう)
筆(ふで)を動(うご)かすに不調法(ぶちやうはう)なれば
其(その)大略(たいりやく)を書(しよ)して童(わらんべ)を
撫育(ぶいく)するの便(たよ)りともなれ
かしと拙(つたな)きを忘(わす)れて記(しる)し侍(はべ)る
現代語訳
【右頁上】
賢者を求めて師として
敬い崇めなさって
少しも臣下のようには扱い
なさらなかった」と言う。
「今、あなたが友とする人はみな
あなたを敬い従う人
である。このような輩と交われば
何もかも自分が優れていると
思い、万事において自分を
足りていると心得て日々に
慢心が募って徳を失う
であろう」と戒めなさったので
文伯はなるほどと気づいて
これより自分に勝る
【左頁上】
人を友として交わったところ
その徳が正しく、ついに誉れを
世に現したということである。
世の親たる人は、この文伯の母の
ように善友を選んで
子の友とすべきである。また
子たる者は文伯が母の教えに
従うことの素早かった
ことに習って、悪い友を
離れ良い友に従って身を
修め孝行を立てるべきである。
《振り仮名:自分に及ばない者を友とすることなかれ》
過ちを犯したなら《振り仮名:改めることを憚ることなかれ》
【右頁下】
一、男女の行儀を知らず大口を叩くこと
一、家職を教えるのに真剣さを込めず心を軽く用いること
一、手習い、読み物、算術の稽古を怠り不精であること
一、火遊びをし、火の元を粗末にすること
この十二ヶ条は童の心得として守るべき
【左頁下】
大事なことでございますので、かたく申し付けて守らせる
べきことです。
右の外にも幼稚な者を撫育する
心得は数多くあると言えども、愚老は
筆を動かすに不調法であるので
その大略を書いて童を
撫育するの便りともなれば
よいかと、拙いのを忘れて記しております。
英語訳
【Right Page, Upper】
sought out wise men to serve as teachers,
respected and revered them,
and never treated them
like mere retainers."
"Now, the people you call friends are all
people who respect and obey you.
If you associate with such people,
you will think yourself superior
in all things, and considering yourself
sufficient in all matters, day by day
your arrogance will grow and you will lose
your virtue." Having been thus admonished,
Wenbo realized this was indeed so, and
from then on befriended people superior
【Left Page, Upper】
to himself, and as a result
his virtue became upright, and he finally revealed
his honor to the world.
Parents in this world should, like Wenbo's mother,
select good friends
to be companions for their children. Also,
children should follow the example
of how quickly Wenbo obeyed
his mother's teaching,
leaving bad friends behind
and following good friends to cultivate themselves
and establish filial piety.
《Ruby text: Do not befriend those inferior to yourself》
When you make mistakes, 《Ruby text: do not hesitate to correct them》
【Right Page, Lower】
1. Not knowing proper etiquette for men and women and talking big
1. When teaching family trades, not putting in earnest effort and applying oneself half-heartedly
1. Being lazy and careless in practicing calligraphy, reading, and arithmetic
1. Playing with fire and being careless about fire safety
These twelve articles are important matters that children should keep in mind and observe
【Left Page, Lower】
These are important matters, so they should be strictly enjoined and observed.
Besides the above, there are many other
principles for raising young children, but this old fool
is clumsy with the brush, so
I have written these general principles hoping they might serve
as some help in raising
children, and have recorded them despite my inadequacy.