翻刻
の宮ふしおがみ車川(くるまがは)米神山(こめかみやま)千蔵(せんぞう)が橋(はし)を渡(わた)り
磯山道(いそやまみち)をつたひ歩(あゆ)み行(ゆく)海上(かいしやう)けふり青(あを)く
波(なみ)に火焔(くわゑん)見ゆ滄海(そうかい)の死鱗(しりん)或(あるひ)は海浜(かいひん)に
さらしあるひは濤頭(とう〳〵)にたゞよふ事其(その)幾(いく)
千万落(せんまんらく)といふことをしらず上人これを見
てあわれみはなはだ胸臆(けうをく)をいたましむ然(しかる)
ところにいづくともなく老翁(ろうおう)卓然(たくせん)として
来(きた)り上人にむかつて《ルビ:□|きつ》ていわく我は是此里(このさと)
の山神(さんしん)なり我願(ねが)ふ所は上人の壇密(だんみつ)の法(はう)
力(りき)を以此|湯(ゆ)を山辺(さんへん)にいのりうつし此湯
に浴(よく)するもの衆病(しゆびやう)悉除(しつぢよ)せんとならば
ともに神力(しんりき)を加(くは)へんと言(いゝ)おはつて迹(あと)をひ
そむ上人歓喜踊躍(くはんきゆやく)して三七日|定中(ぢやうちう)に
安座(あんざ)して種〻(しゆ〴〵)の秘法(ひはふ)を修(しゆ)し則(すなはち)湯(ゆ)を
山辺(さんへん)に祈(いの)りこふ其日(そのひ)や天地(てんち)朦朧(もうろう)として
草木(草木)震動(しんどう)し山鳴(やまなり)谷応(たにこたへ)て起(おこ)り石飛(いしと)ぶ