翻刻!草双紙の世界

コレクション: @chinjuさんと読む草双紙

大時代唐土化物 3巻. 曽我太夫染 - 翻刻

大時代唐土化物 3巻. 曽我太夫染 - ページ 30

ページ: 30

翻刻

【枠】つゞき【ここまで】こんやとつくりかくごしてあしたきつてやりませう 〽イヱ〳〵あしたはちいみ【血忌、血忌み日】でござんすけふちやつと きるまねしてほんにきるのはあしたがよい〽そんなら 切 ̄ル まねばかりか〽アイそふでござんすとまくらへ ゆびをのせさせてうへよりてうどうちきれば 〽のふかなしやとなきふすのかぜ〽ヲヽどふりで ござんすいたからうかなしからうがなにを いふのもいもとのためとかんにんしてくださんせと わぶるところへやりてがたちいで〽おくにござる やわたさまがおまへをつれてかへるとて今こゝへ ござんすときいてとらはびつくりし〽おまへはやう【お前早やう】 おくへいてとらはゆくきでござんすがとらが母が【かすれを別本で補う】 とくしんせぬとそふいふてくださんせとやり手を おひやりこれあねさん此ごろざしきでそとは 小町の【卒都婆小町の】のふがあつてナかづらやゐしようは【カツラや衣装は】 このうちにしまつてあるわたしがそのかづらを きてとらが母といふほどにさいわひの たそがれどきあかりをつけてくださん すなといひすて一 ̄ト 間へはしりゆく やわたはたちいで〽これはくらいイヤなに そこな女いよ〳〵とらはゆかふといふかと とわれてのかぜがいたさをこらへ 〽あいとらさんはゆくきでも母ごさんが とくしんせぬときいてせきたつやわたの 三郎〽それならば母にあをふこゝへ よべといふうちにとらはらうじよに すがたをやつしする〳〵といできたれば 〽フウさてはそなたがとらが母か すけつねさまへさしあぐれは おひのたのしみ此うへなしどふじや〳〵 ととひかけられとらはかしらを うちふりて〽イヤ〳〵いかなる ゑいぐわにあふとても わが子をはなち やることはたよりなく 候へばおもひもよらず候 とうたひかゝりしこはね にてよわ〳〵とまひ かなでけりやわたは ふしんのがんしよくにて 〽くらうて【暗うて】あいろは【文色は=様子は】わからねど しらがににやはぬかほのわかさ ちようちんもてとけらひをよび ヤヤやつぱりわれはとらごぜんと いはれてにげゆくもすそをとらへ とゞむるはづみにおちたるかづら とらはあらはれせんかたなく ちようちんはつたとうちおとす とりにがさじとさぐりより のかぜをとらとこゝろへて やわたがとゞむるひとまの ふすまとらははつたとたてきつて 〽それにゆるりとござんせやおとぎに あねをおきますといひすてゝこそ にげゆきけり 【次のゑのわけ】さるほどにそが兄弟は※ ※とある川べにたちいでゝしきみをさし水をたむけ 父しようりようぶつくわぼだいとふしおがみ〽いかに五郎 世がよのときであらうならいかなる仏事もなすべきに 兄弟がしきみの水心ばかりの たむけくさくちおしいみになりはて たとなみだぐめばときむねが 〽そのおくやみはことわりながら▲ ▲此ときむねが身に とつては三つのよろこび候也 一つには母うへのかんきがゆり 二つにはげんぶくして 兄弟いつしよの此たいめん 〽ヲヽいふまでもない三つにはおやの かたきをうちとつてほんもうを とくるであらうと心にいさむ をりこそあれ大いそのてうがごけかめぎくを ひつたてきたり〽やい女とらばかりかとおもふたら【枠】次へ【ここまで】 ○とらごせんそとは小町の   かづらをきてとらが          母といつわる ○のかぜ  〽やわたさまは    おしのび   あかりを     つけると   おもてから    おかほが     みへます 【刷りの違う同内容の本: https://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/he13/he13_01993/index.html 】

現代語訳

【続き】今夜とっくりと覚悟して明日切ってやりましょう。」「いえいえ、明日は血忌日でございます。今日ちゃっと切る真似をして、本当に切るのは明日がよい。」「そんなら切る真似ばかりか。」「はい、そうでございます。」と枕へ指を載せさせて上より庖丁で切れば、「ああ痛ましいや」と泣き伏す野風。「おお、どうしてでございます。痛かろう、悲しかろうが、何を言うのも妹のためと辛抱してくださんせ。」と詫びるところへ遣り手が立ち出で、「奥にござる八幡様がお前を連れて帰るとて、今ここへござんす。」と聞いて虎はびっくりし、「お前は早う奥へ行ってください。虎は行く気でございますが、虎が母が得心せぬとそう言ってください。」と遣り手を追いやり、「これ姉さん、このごろ座敷で『卒塔婆小町』の能があって、鬘や衣装はこの家に仕舞ってある。私がその鬘を着けて虎が母と言うほどに、幸い薄暮時、明りをつけてくださんすな。」と言い捨て一間へ走り行く。 八幡は立ち出で、「これは暗いな。いや、何、そこな女、いよいよ虎は行こうというか。」と問われて野風が痛さを堪え、「はい、虎さんは行く気でも母御さんが得心せぬと聞いて。」関立つ八幡の三郎。「それならば母に会おう。ここへ呼べ。」といううちに虎は老女に姿をやつしすらすらと出で来たれば、「ふう、さてはそなたが虎が母か。祐経様へ差し上ぐれば御身の楽しみこの上なし。どうじゃ。」と問いかけられ虎は頭を打ち振りて、「いやいや、いかなる栄華に遭うとても我が子を放ちやることは頼りなく候えば、思いもよらず候。」と謡いかかりし小刃にて弱々と舞い奏でけり。 八幡は不審の眼色にて、「暗うて様子はわからねど、白髪に似やはぬ顔の若さ。」提灯持て下部を呼び、「やや、やっぱり我れは虎御前。」と言われて逃げ行く裾を捉え留むる弾みに落ちたる鬘。虎は現れせん方なく提灯はったと打ち落とす。取り逃がさじと探り寄り、野風を虎と心得て八幡が留むる一間の襖、虎はぱったと立て切って、「それにゆるりとござんせ。お伽に姉を置きます。」と言い捨ててこそ逃げ行きけり。 【次の絵の分け】さるほどに曽我兄弟は、とある川べに立ち出でて樒を差し水を手向け、父成仏供養と伏し拝み、「いかに五郎、世がよの時であろうなら、いかなる仏事もなすべきに、兄弟が樒の水、心ばかりの手向け草、口惜しい身になりはてた。」と涙ぐめば時宗が、「そのお悔やみはもっともながら、この時宗が身にとっては三つの喜び候也。一つには母上の勘気が許り、二つには元服して兄弟一所のこの対面、」「ああ、言うまでもない。三つには親の仇を討ち取って本望を遂ぐるであろう。」と心に勇むおりこそあれ、大磯の長の後家、亀菊を引っ立て来たり、「やい女、虎ばかりかと思うたら【次へ】 ○虎御前、卒塔婆小町の鬘を着けて虎が母と偽る ○野風 「八幡様はお忍び、明りをつけるとお顔から顔が見えます」