翻刻
れの井(ゐ)も水乾(みづかは)き山(やま)の破烈(はれつ)近(ちか)きにあり急(いそ)ぎ荷物(にもつ)
を取片附(とりかたづ)けよと云(い)ふ侭(まゝ)に早(はや)くも妻子(つまこ)と共(とも)に「な
ぷる」と云(い)ふ城下(じやうか)へ行(ゆ)き弟(おとゝ)の家(いゑ)に至(いた)り未(いま)だ時(とき)を
移(うつ)さゞるに山(やま)より火焔(くわゑん)を噴(ふ)き燃石(もへいし)を投出(なげだ)し麓(ふもと)
の在所(ざいしよ)皆地下(みなちのした)に埋(うづも)れりと斯(かゝ)ることより考(かんか)ふれ
ば地震(ぢしん)火山(くわさん)の災(わさわひ)は一(いつ)ケ国(こく)或(あるい)は一(いつ)ケ村(そん)の難義(なんぎ)とはな
れども元(も)と天(てん)より億兆(おくてう)の人民(じんみん)を救(すく)はんため設(もう)
けられたるものなれば心(こゝろ)ある人々(ひと〴〵)之(これ)がため天(てん)
を怨(うら)むることなしと云(い)ふ
彗星(はゝきほし)の事(こと)
彗星(はゝきほし)の数(かづ)は六百斗(ろくひやくばか)りもあるものにして七十六(しちじうろく)
年目(ねんめ)に顕(あら)はるゝもあり四年目(よねんめ)に現(あら)はるゝもあ
り或(あるひ)は二千年(にせんねん)を経て出(いづ)るもあり六百(ろくひやく)の星(ほし)皆夫(みなそれ)
々(〳〵)の期限(きげん)あり全(まつた)く彗星(はゝきほし)は日輪(にちりん)を周(めぐ)り動(うご)く星(ほし)の
一(ひと)ツにてその日輪(にちりん)の側(そば)に廻(めぐ)り来(く)る時刻(じこく)は自(おのづ)から
定(さだま)りあり猶(な)ほ燕(つばめ)の春分(しゆんぶん)に来(き)て秋分(しうぶん)に去(さ)り又来(またくる)
春(はる)に渡(わた)り来(く)るが如(ごと)し大古(おほむかし)は此星(このほし)の出(で)るを見(み)て
或(あるひ)は禍災(わさはい)の前兆(しるし)となし或(あるひ)は《ルビ:瘟疫|やくびやう》の前兆(しるし)とし一(ひと)