翻刻
ものありて一様(いちやう)ならず何(いづ)れも湯気(ゆげ)の如(ごと)き薄(うす)き
ものにて透(す)き通(とを)りたるものなり又(また)彗星(はゝきほし)は光明(くわうみやう)
強(つよ)けれども熱気(ねつき)はなきものなりその証拠(しやうこ)には
寒暖計(かんだんけい)を以(もつ)て其年(そのとし)の温度(うんど)を測(はか)りたるに平年(へいねん)と
少(すこ)しも異(こと)なることなし又(また)彗星(はゝきほし)は凶歳(きやうさひ)の前兆(しるし)と
云(い)ふ説(せつ)あれども彼(かの)千八百十一年(せんはつぴやくじういちねん)我文化八年(わがぶんくわはちねん)に
現(あら)はれたるものは極(きは)めて大(おほひ)なるものにて尾(を)の
長(なが)サ九千五百万里(くせんごひやくまんり)ありしと雖(いへ)どもその年(とし)は曽(かつ)て
なき五穀(ごこく)の豊熟(ほうしゆく)を得(え)たり且又(かつまた)「ほあいすとん」氏(うじ)
の説(せつ)に大古(おほむかし)の世界(せかい)大洪水(おほこうずい)ありしは彗星(はゝきほし)の地(ち)に
近(ちか)づき水(みづ)を引(ひ)たるより起(おこ)りとし云(い)へども此年(このとし)
の彗星(はゝきほし)は正(まさ)しく大洪水(おほこうずい)の時(とき)に現(あら)はれし星(ほし)なる
に之(これ)がため洪水(こうずい)も出(い)でざればその説(せつ)信(しん)ずるに
足(た)らず万(まん)一彗星(はゝきほし)の地(ち)に触(ふ)るゝことあるも前(まえ)に
云(い)へる如(ごと)く非常(ひじやう)に軽(かろ)きものゆへ恐(おそ)るべきにあ
らず況(ま)してや天(てん)は広大無辺(こうだいむへん)なるものにてその
大空(おほぞら)を地(ち)の如(ごと)き些少(わづか)のもの転(まろ)び行(ゆ)くも数(かづ)の極(きま)
りたる彗星(はゝきほし)の往(ゆき)て又(また)回(かへ)るも万々(まん〳〵)相触(あいふ)るゝの恐(おそれ)