翻刻
なし恰(あたか)も千万里(せんまんり)の大洋(たいやう)に五六枚(ごろくまい)の木葉(このは)を浮(うか)む
るが如(ごと)し誰(たれ)かその相触(あいふ)るゝを恐(おそ)るゝものあら
ん或天文家(あるてんもんか)若(も)しや衝当(つきあた)ることもあらんかと勘(かん)
定(じよう)して数(かづ)に比(くら)べ説(と)きたるを見(み)ればその衝当(つきあた)ら
ざることの慥(たしか)なるは二億八千一百万(におくはつせんいつひやくまん)にしてそ
の衝当(つきあた)るへき恐(おそ)れあるは唯一(たゞひと)ツなりと云(い)へり左(さ)
あれば彗星(はゝきほし)の現(あら)はるゝも恐(おそ)るへきものにあら
ず
虹霓(にじ)の事
古昔(むかし)唐土(もろこし)にては虹(にじ)の騭(のぼ)るを陰気(いんき)陽 気(き)を冒(おか)すの
兆(しるし)と唱(とな)へ女中(ぢよちう)権臣(けんしん)抔(など)の盛(さかん)なるに比(くら)べたること
あり是全(これまつた)く物(もの)の理(り)を究(きは)めざるより斯(かゝ)る惑(まど)ひを
説(と)きしものなり虹(にじ)の騭(のぼ)るは村雨(むらさめ)のときに限(かぎ)り
朝(あさ)には西(にし)に騭(のぼ)り夕(ゆふべ)には東(ひがし)に見(み)
ゆると定(さだま)り自然(しぜん)の理合(りあい)より
起(おこ)るものなれば何(なに)も怪(あやし)むべ
きにあらず今(いま)此理(このり)を説(と)かん
とするに当(あたつ)て心得置(こゝろゑお)くべき