翻刻
梗色(きやういろ)とす此七色(このなゝいろ)は固(もと)よ
り日光(につくはう)の本色(ほんしよく)なれども
砕(くだ)けて見(み)へざるもの斜(なゝめ)
に斯(かゝ)る硝子(びいどろ)へ透(す)き通(とほ)る
より光(ひかり)の道筋曲(みつすぢまが)りて本来(ほんらい)
の色(いろ)を顕(あら)はしたるなり虹(にじ)の
彩色(いろどり)も七色(なゝいろ)にて此硝子(このびいどろ)に透(す)き通(とお)りたる
彩色(いろどり)と何(なに)も異(こと)なることなし右(みぎ)の次第(しだい)なれば村(むら)
雨(さめ)の算(かぞ)へ難(がた)き水滴(みづたま)皆斜(みななゝめ)に日輪(にちりん)の光(ひかり)を通(とを)し夫(それ)よ
り折(お)れて人(ひと)の眼(まなこ)に投(な)げ反(かへ)すもの七色(なゝいろ)の彩色(いろどり)を
具(そな)へ美麗(びれい)に見(み)ゆるも自然(しぜん)道理(どうり)なり扨又(さてまた)朝(あさ)は
西(にし)に見(み)へ夕(ゆうべ)は東(ひがし)に騭(のぼ)るの理合(りあい)は日輪(にちりん)を後(うしろ)の鏡(かゞみ)
に譬(たと)へ村雨(むらさめ)の水滴(みづたま)を前(まへ)の鏡(かゞみ)に比(くら)べなば朝夕(あさゆふ)と
も日輪(にちりん)を背(せ)に負(を)ひて虹(にじ)の騭(のぼ)るを見(み)るの理(り)なり
元来(ぐわんらい)虹(にじ)は環(たまき)の形(なり)なれども下(しも)の方(かた)は地(ち)に蔽(をほ)はれ
全体(まつたきすがた)を現(あら)はさゞれば誰(たれ)も円(まろ)きものとは思(おも)はざ
るべし試(こゝろみ)に船(ふね)の帆柱(ほばしら)或(あるい)は高(たか)き丘(をか)抔(など)に登(のぼ)り虹(にじ)の
騭(のぼ)るを見(み)なば稍(や)や下(しも)の方(かた)を見(み)るべし又(また)虹(にじ)は村(むら)