翻刻
れども熱(あつ)くして光(ひかり)なく光(ひかり)ありて熱(あつ)からざるも
のあり湯(ゆ)の如(ごと)きは何程熱(なにほどあつ)くとも光(ひかり)なく蛍(ほたる)火(び)朽(くち)
木生(きなま)の海魚海水(うみうをうみのみづ)不知火(しらぬひ)陰火抔(いんくわなど)の類(るい)は光(ひかり)あれど
も熱(あつ)からず此種(このたぐひ)の火(ひ)は皆(みな)「ぽすぽる」と云(い)ふもの
水素(すいそ)と調合(てうがう)し燐化(りんくわ)水素となり自然(しぜん)の理合(りあい)を以(もつ)
て光(ひかり)を放(はな)つものなり同(おな)じ種類(たくい)の中(うち)にても蛍(ほたる)火(び)
は王公貴人(わうこうきにん)より婦人小児(おんなわらんべ)に至(いた)るまて誰(たれ)も愛弄(あいろふ)
せざるはなし殊(こと)に宇治川(うぢかは)の蛍狩(ほたるがり)は京洛間(けいらくかん)の諸(しよ)
人見物(にんけんぶつ)のため市(いち)をなす程(ほど)なりと聞(きこ)へしが嘗(かつ)て
此(これ)を恐(をそ)れし人(ひと)あるを聞(き)かず
又朽木(またくちき)より光(ひかり)を放(はな)つことあ
り柊抔(ひいらぎなど)の朽(くち)ち腐(くさ)れたるもの
に最(もつと)も多(をほ)く怪(あや)しげなるもの
に見(み)ゆれども元(も)と朽木(くちき)なれ
ば児童(わらんべ)の輩暗所(ともがらくらきところ)に持行(もちゆ)き朋(とも)
友(だち)に奇(めづらしき)を誇(ほこ)るの具(そなへ)とするの
み又生(またなま)の海魚殊(うみうをこと)に海老(ゑび)抔(など)を
暗所(くらきところ)に持行(もちゆ)きなば白(しろ)き光(ひかり)を