翻刻!草双紙の世界

コレクション: @chinjuさんと読む草双紙

万物小遣帳 : 2巻 - 翻刻

万物小遣帳 : 2巻 - ページ 13

ページ: 13

翻刻

とんだちやがまは千両の かねの入しおはぐろ つぼをもちかへり ふたをあくればかねには あらですみけしつぼ なりうちより けふりのごとくなる もの立のほると ひとしくとんだ ちやがまたちまち やくわんとなりしは ふしきともいふ はかりなし【り?】 〽ときにさいほうの しやくしによらい うんちうに あらわれ つけてのた まわく なんぢ もと 千 ね ん としふる たぬきの ばけたるなり 【左ページへ】 ちくるいのぶんと して人けんの とりあつかう しよたいどうぐの 中にまじはりわれを わすれあくじを なせりすみけし つぼの火気にふすへられてたぬき たぬきのせうをあらわしたりやくわんは きんたまのかたちなれは これすなはちたぬきなりしかし こかねのかまをぬすみ出したるも ひんのぬすみてはなくてこひの ぬすみなればわかげのあやまり までにて大さいといふにあらず よつてなんぢをやくわんおやぢと なしたるなりとしはすなはち くすりにてきやうかう いろにまよふ事なから しめんがための ほうべんなり いらいをきつと つゝしむへしこの しやくしかことはを じやうぎとしてかならす うたがふ事なかれとひうち いしをかち〳〵とうたせ給ひ くわうめうをてらして    さらば〳〵と      うせ給ふ 【右ページ中段、すりこ木ととっくりの台詞】 しやく によらい    を だれぞ たのんだか しらぬ 大きに おせはだ 【右ページ下段】 かつ はや のす りこ ぎ うとん やの とつ くり こ の て いを みて あき れる これもやくわんの ていとかわりま すればひを ともし 御目に  かけ   ます 【左ページ下段】 〽おきやァがれ しやれ所 じやァねへ これから又 どうこ【銅壷】に でも ならねば   いゝ やくわん どうこ なをし   だ  から

現代語訳

とんだ茶釜は千両の金の入ったお歯黒壺を持ち帰り、蓋を開ければ金ではなく墨消し壺であった。中から煙のようなものが立ち上ると同時に、とんだ茶釜はたちまち薬缶となったのは、不思議というほかない。 ♪その時、西方の釈迦如来が雲中に現れて、付いてのお言葉をくださった。「お前は元々千年を経た古狸の化けたものである。【左ページへ】畜類の分際として人間の取り扱う所帯道具の中に紛れ込み、我を忘れて悪事を働いた。墨消し壺の火気に燻されて狸の正体を現したのだ。薬缶は金玉の形なので、これはまさに狸である。しかし、小金の釜を盗み出したのも、貧のための盗みではなく恋のための盗みなので、若気の過ちまでのことで大罪というわけではない。よってお前を薬缶親父としたのである。」と仰せになり、「これはすなわち薬で、狂った色欲に迷うことのないよう、心を静めるための方便である。今後をきっと慎むべし。この釈迦の言葉を上着として必ず疑うことなかれ」と、火打ち石をカチカチと打たせなさり、光明を照らして「それでは」と消え失せなさった。 【右ページ中段、すりこ木ととっくりの台詞】 「釈迦如来を誰か頼んだか知らぬが、大きなお世話だ」 【右ページ下段】 かっぱやのすりこ木、うどん屋のとっくり、この様子を見て呆れる。 「これも薬缶の姿と変わりますれば、火を灯してご覧に入れます」 【左ページ下段】 ♪「起きやがれ、洒落た所じゃあない。これからまた銅壺にでもならなければいい。薬缶、銅壺、直しだから」