翻刻
さてもしやくし如来は
ちとおほしめす
事ありてぎんの
ちやがまがゆめの
内にらはれ
給ふはづ
なれとも
御いそかしければ
さきに御手
にふれさせ
給ひしひうち
と【之=の?】いしをめう【火打ち(金)と(火打ち)石では?】
だいに出し給ふ
ゆへきんの
ちやかまがゆめの
中にこの
手合があら
われていわく
〽さてこれまでのいつけんは
みなあいすみたりこれから
ちとそのほうかあふらを
とるなりなんちせんねん
ひかし山とのにてうほう
しられしみをたかぶり
すでに此度
こがねのかまを
うけ出したり女郎の
二人や三人うけだしたり
【左ページへ】
とてさのみいたみにも【然のみ痛みにも】
ならぬしんだいなれとも
それではかないが
おさまらぬなりなんぢが
目よりわれ〳〵がひうち
はこにてとしをとるを
こしぬけとや思ふらん
百万こくをれうしても
ざするたゝみいちしやうなり
われ〳〵もわづかの内にくらせども
心のたのしみはなんぢがみのうへに
かわる事なしやぶれたるものをきて
にしきをかざる人とおなしやふに
ならんでもかたちをもつて
はぢとせず心をもつて
はぢとするなれば
これより
おごる
心をやめ
けんやくを
第一と
まもらは
しゝそん
〳〵
まても
めでたく
さかえん事
うたかひなし
きつとわれ
〳〵
うけ合
なり
なんとせけんの御子さまがた
御かてんか〳〵
【右ページ下】
〽きんのちやがまは
ゆめ■【さ】めてこれ
よりおこる
心をあらため
けんやくを
もつはらと
して
すへなかく
さかへける
ぞ
めて
たし
〳〵
【囲み内】一九画作
現代語訳
さて杓子如来は少しお考えになることがあって、銀の茶釜が夢の中に現れるはずなのだが、お忙しいので、先にお手に触れさせなさった火打ち金と火打ち石を身代わりにお出しになった。そのため金の茶釜が夢の中にこの手合い(火打ち道具)が現れて言うことには:
♪「さて、これまでの一件はみな相済んだ。これから少しそなたが奢りを取るのである。汝千年東山殿にて重宝がられた身を高ぶり、すでに今度小金の釜を請け出した。女郎の二人や三人請け出したとて、それほど痛手にもならない身代なのだが、それでは甲斐性が収まらないのである。汝が目には我々が火打ち箱にて年を取るのを腰抜けとでも思うだろうが、百万石を領しても座する畳一畳なり。我々もわずかな内に暮らせども、心の楽しみは汝が身の上に変わることなし。破れたる物を着て錦を飾る人と同じ様になろうとも、形をもって恥とせず、心をもって恥とするものなれば、これより奢る心をやめ、倹約を第一と守らば、子孫末代までもめでたく栄えること疑いなし。きっと我々が請け合いなり。」
なんと世間の御子様方、御火殿(ご勘弁)下さい。
【右ページ下】
♪金の茶釜は夢覚めて、これより奢る心を改め、倹約をもっぱらとして末永く栄えたのはめでたいことである。
【囲み内】一九画作
英語訳
Now, Shakushi Nyorai (Ladle Buddha) had something to consider, and although the silver tea kettle should have appeared in a dream, being busy, he sent out the flint and steel that had previously touched his hands as substitutes. Therefore, these fire-making tools appeared in the gold tea kettle's dream and spoke thus:
♪"Now, all the previous matters have been settled. From now on, you must curb your extravagance somewhat. You who were treasured for a thousand years at Higashiyama Palace became proud, and have now ransomed out the small gold kettle. Even if you were to ransom out two or three courtesans, with your wealth it wouldn't be much of a financial blow, but that wouldn't satisfy your sense of duty. You probably think we fire-making tools growing old in a tinderbox are cowards, but even one who rules a million koku of rice sits on the same single tatami mat. Though we too live in humble circumstances, our heart's joy is no different from yours. Even if you become like someone who wears rags but decorates with brocade, take shame not from appearance but from the heart. If you abandon your prideful heart from now on and make frugality your first priority, your descendants will prosper for generations without doubt. We absolutely guarantee this."
How about that, young masters of the world - please forgive us!
[Right page bottom]
♪The gold tea kettle awoke from the dream, and from then on reformed his extravagant heart, made frugality his priority, and prospered for a long time - how auspicious!
[In frame] Illustrated by Ichiku