翻刻
【右丁】
つきのおきやくは
しこくみしめな【しごく惨めな】
むすこ【息子】おやち【親父?】
か【、】やましい
とみへて【、】とう
せいもなく【当世もなく(今風ではなく)】
おさたまり
のなり【お定まりのなり(格好)】
おふくろのない
しやう【内証(内々に、秘密で)】
にて若
ものは【者は】ひ
とつきやい【人付き合い】も
あるものと
とひいろ【鳶色=茶褐色】のみつもん
のはおりころものやうに大
きくしてちやかへし【茶返し=濃い茶色】の小袖に
ひとんす【緋緞子=緋色(鮮やかな赤)の緞子(地が厚く光沢の多い絹織物。多くは紋織。)】のおひ【帯】やわたくろ【八幡黒=黒く染めた柔らかな革。】の
さんまいうら付【?】にておやしきの
まとした【窓下】をとふれは女中の
こへにてやくしやかとふります
といへは外の女中いへやくしやては
ござりませぬとふりもの【通り者=世情・人情に通じた人。粋な人】とやら
いふとやらてござりますときてやれはおもひ三枚うら付【?】けにて
これから深川の方へまいろふとおもふ内〽あに様におひんなり
【左丁】
つきのおきやくも
りちきらしき人【律義らしき人】
なにかしあんかほ
にてふらり〳〵
あるきけれは人
通りもなき所に
千両ばこ三箱
あたりをみれは
人もなしいや〳〵
あとでしりの【後で尻の】
きそふなこと【来そうな事(しっぺ返しがありそうだ)】
し□し二十四□□【しかし二十四かう(二十四孝)】
のうちにこかねの【のうちに黄金の】
かまをほり□□【釜をほりたし(出し)】
たものもありて□□□【た者もあり、天より】
さつかるものお【以下数字分判読不能】 けのさた
とおも 【以下数字分判読不能】 をたし
千両 【以下数字分判読不能】 また
ひとはこを 【以下数字分判読不能】 はこ
てはいこか 【以下数字分判読不能】 もたれ
もせずたか□の 【以下数字分判読不能】 せう
のはしやうたかて□むなしく
かへるかさんねんなとときむねか
たいめん【曽我物狂言で曽我兄弟が工藤祐経と対面する場面で、慎重な兄十郎祐成に対して弟五郎時致(ときむね)が、血気にはやった行動をとろうとしたこと】のしうちどうした
ものとおもふうち
〽おひんなりませ
【40行目以降、状態が悪くこの資料では判読不能なため、別の資料からの翻刻を以下に追加する。https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100053333/viewer/15】
40 しかし二十四かう【しかし二十四孝】
41 のうちにこかねの【のうちに黄金の】
42 かまをほりたし【釜を掘り出し】
43 たものもありてんより【た者もあり、天より】
44 さつかるものおおひてゆくのもこけのさた【授かる物を置ひてゆくのも虚仮(馬鹿)の沙汰】
45 とおもいいつせいちとのちからをたし【と思い、一世一度の力を出し】
46 千両はこをひとはこせおひまた【千両箱を一箱背負ひ、また】
47 ひとはこをひつさけてみてふたはこ【一箱を引っさげてみて、二箱】
48 てはいこかれすおくもおしくもたれ【では動(いご)かれず、置くもおしく、持たれ】
49 もせずたからの山に入なからせう【もせず、宝の山に入りながら、背負う(しょう)】
50 のははしやうたがておむなしく【のは背負うた(しょうた)が手を空しく(手ぶらで)】
51 かへるかさんねんなとときむねか【帰るが残念な、と時致が】
52 たいめんのしうちどうした【対面の仕打ち、どうした】
53 ものとおもふうち【ものと思ふうち】
54 〽おひんなり
55 ませ
現代語訳
【右丁】
次のお客は、しごく惨めな息子で、親父か、やましいことがあるとみえて、今風ではなくお定まりの格好で、おふくろに内緒にて、若い者は人付き合いもあるものだと、鳶色の紋付の羽織を着物のように大きくして、茶返しの小袖に緋緞子の帯、八幡黒の三枚裏付にて、お屋敷の窓下を通れば、女中の声にて「薬師様がお通りです」と言えば、外の女中が言うには「薬師様ではございません。通り者とやら言うとやらでございます」と来てやれば、思い三枚裏付けにて、「これから深川の方へ参ろうと思う」うち♪兄様にお品なり
【左丁】
次のお客も律義らしき人で、何かしら案じ顔にてふらりふらりと歩いていけば、人通りもない所に千両箱三箱。あたりを見れば人もなし。いやいや、後で仕返しがきそうなことだ。しかし二十四孝のうちに黄金の釜を掘り出した者もあり、天より授かる物を置いて行くのも愚かな沙汰だと思い、一世一度の力を出し、千両箱を一箱背負い、また一箱を引っさげてみて、二箱では歩けず、置くのも惜しく、持つこともできず、宝の山に入りながら、背負うのは背負ったが手ぶらで帰るのが残念だと、時致が対面の仕打ち、どうしたものかと思ううち♪お品なりませ
英語訳
【Right page】
The next customer is a most pitiful son who appears to have something guilty about him, whether it's his father or himself. Dressed not in contemporary fashion but in the usual old-fashioned style, secretly from his mother, thinking that young men must maintain social appearances, he wears a large hawk-brown crested haori like an outer garment, a dark brown kosode with a bright red brocade obi, and black leather backing. As he passes below the mansion's window, a maid's voice calls out "The medicine Buddha is passing by!" but another maid says "That's not the medicine Buddha, it's what they call a man-about-town or something like that." Coming with his elaborate outfit, thinking "I shall head toward Fukagawa," ♪ the elder brother looks refined.
【Left page】
The next customer also appears to be an honest person, walking aimlessly with a worried expression, when he comes upon a place with no foot traffic where three boxes of a thousand ryo each are sitting. Looking around, there's no one about. "Oh no, this seems like something that could come back to bite me later." However, among the Twenty-Four Paragons of Filial Piety, there was one who dug up a golden pot, and he thinks it would be foolish to leave behind what heaven has granted. Summoning all his strength for this once-in-a-lifetime chance, he shoulders one thousand-ryo box and grabs another, but finds he cannot walk with two boxes. Unable to leave them behind yet unable to carry them, he entered a treasure mountain but, having shouldered what he could, must return empty-handed - how regrettable! Like Tokimune's rash behavior at the confrontation scene, wondering what to do, ♪ how refined you look.