翻刻
【右丁】
つきのおきやくはむすめを三人もち
しまんこゝろ【自慢心】にてまりうた【鞠歌…歌舞伎下座音楽の一つ。三味線と唄でにぎやかな正月の気分を表わす。】を
おもひたしひとりのあねき【姉貴…「あねぎみ(姉君)」の変化した語か】は
たいこをならわせそのつき
にはつゝみをならわせ
ことさみせんといふ
所をあしな【味な=気が利いて意外なこと】
おもひつきなり
ばつし【末子=末っ子】のむ
すめきたてな
ことかすき
ゆへとうせいに【当世に(今風に)】
こしらへむらさき
ちりめんにひわ
ちや【「ひわちや(鶸茶)」なら萌黄色の黄ばんだ色、「びわちや(枇杷茶)」なら黄のくろずんだ色。】のうらふし
いろのむく【無垢=同色の無地】きん
なしのしんおり【新織=新たに織り出した織物】
のおひしたやいちばんたてしやて【の帯、下谷一番伊達者で】
こさるくらいては【ござる、くらいでは】
なし【、】さかひ丁【堺町=東京都中央区日本橋人形町のあたりにあった地名。江戸時代の芝居街で中村座があった。】ても
深川【東京都江東区西部の地名。安永・天明年間(一七七二~八九)には深川遊里がさかえた】ても橘丁【橘町=東京都中央区東日本橋三丁目付近の旧地名。江戸時代踊り子と称するいわゆる転び芸者が多く住んでいたという。】へ
てもどうぼうまち【同朋町】ても
まけぬきにてきやう
たいのたいこつゝみの
【左丁】
しやうづ【上手】にておつり【余分、それ以上】【「乙力」と関係があるかも?】
ないかとほめるもの
かあれはこゝにいる
とまかりいて
ほしかるところ【(嫁に)欲しがる所】
も山〳〵あれは
しうとはひとり【姑(舅)はひとり】
かふたりか【か二人か】
むこはりかうか【婿は利口か】
へらほうか【べらぼう(な馬鹿)か】
しばいは月にいくたひ【月に何度芝居見物に連れていってくれるか】
みせるあさね□□よふか【朝寝をしよふか】
とうしやう□□□□□【どうしょうか、くつとも】
ぬかすととりかへす
のなんのかのとてりくつ
はり【「理屈張り」=ひどく理屈を言い張る。】またやう〳〵
十四をかしらにして
十一ト八ツ
〽もうおひん
なりませ
とほうもない
ひるまねことを
おつしやつた
現代語訳
【右丁】
次のお客は娘を三人持ち、自慢心にて鞠歌を思い立し、一人の姉貴は太鼓を習わせ、その次には鼓を習わせ、琴や三味線という所を気の利いた思いつきなり。末っ子の娘は器量が好きゆえ、今風にこしらえ、紫縮緬に鶸茶の裏、藤色の無垢、金梨地の新織の帯、下谷一番の伊達者でござる、くらいでは済まない。堺町でも深川でも橘町でも同朋町でも負けぬ気にて、京都大坂の太鼓鼓の
【左丁】
上手にて、それ以上ないかとほめる者があれば、ここにいると参り出て、(嫁に)欲しがる所も山ほどあれば、舅姑は一人か二人か、婿は利口か馬鹿か、芝居は月に何度見せてくれるか、朝寝をしようか、どうしようか、靴とも抜かすと取り返すの、なんのかのと理屈張り、またようやく十四を頭にして十一と八つ♪もうお品なりませと、とんでもない昼間寝言をおっしゃった
英語訳
【Right page】
The next customer has three daughters and, filled with pride, decided to have them learn mari-uta music. He has the eldest daughter learn the taiko drum, the second learn the tsuzumi hand drum, and as for the koto and shamisen - what a clever idea! The youngest daughter is beautiful, so he dresses her in contemporary fashion: purple chirimen silk with yellowish-green lining, wisteria-colored plain silk, and an obi of newly-woven fabric with gold nashiji lacquer design. She's the most stylish in Shitaya, no less. Whether in Sakai-cho, Fukagawa, Tachibana-cho, or Dobo-machi, she won't be outdone, and as for the taiko and tsuzumi playing of Kyoto and Osaka...
【Left page】
She's so skilled that when people praise her saying "Could there be anyone better?" she comes forward saying "Here I am!" There are many places that want her as a bride, so (they ask): "Are the in-laws one or two people? Is the prospective husband clever or stupid? How many times a month will he take me to see plays? Shall I sleep in in the mornings? What should I do?" When she babbles about shoes and such, they retort, and with all this back-and-forth argumentative talk, finally with the eldest at fourteen and the others eleven and eight years old ♪ "How refined you look!" - what ridiculous daytime sleep-talk she uttered!