翻刻
【右丁】
つぎのおきやくはひとつ
長屋【同じ長屋】にいる佐次平と
いふものこの男せう
とく【「しょうとく(生得)=生まれつき】よくとうし【欲どうし】き
ものにてねほう【ねぼう(寝坊)】
せんせい【先生】も枕か
はやりてひね【賽銭や祝儀などを紙で包んで、紙の端の部分をよじり合わせたもの。おひねり。】
かはいり【入り】きん
きんは山のことく
てきれとも子
供もなくだれ
にゆづろうと
いふものもなし
大屋さまのおせは
にて佐次平をむすこにそふたん【相談】
すれはもとより
大のよくしんもの【「欲心者」=欲深くむさぼる心をもつ者】な
れはそふたんき
わまり【決まる意】なるや【なかや?】
としゆへ【中宿しゆへ?】さつそく
ひつこしねほう
せんせいもよろ
【左丁】
こびすくにしん
だい【すべての財産】をゆづりて
かぎをわたし
けれはこれからはおれか
しんだいずいぶん【極力。精一杯。】
かんりやく【勘略=あまり手数や金銭がかからないように節約すること。倹約】をして
かねをこしらへねば
ならぬよつほと金
もあれ共まだ〳〵
おやしはせにつかいか
あらいそのうへある
かねをもかふ【こう】あそは
せておいてはすまぬ
まくらもひとゝき【「ひととき寝」の代金】
弐百はあんまり安い
一本かもの【「一本」とは一文銭または四文銭をつないだ銭差し一本の意で、百文または四百文のこと。ここでは「四百文くらいの値打ち」という意か】はありそふな
ものきんちよのしうへも【近所の衆へも】
さけでもふるまはすは
なるまいかさかなて
ももらつてからの
ことと
〽左次平さん
おきていつふく
あがれ
現代語訳
【右丁】
次のお客は、同じ長屋に住んでいる佐次平という者。この男は生まれつきの欲深い者で、寝坊先生も枕稼ぎをしており、おひねりの収入は山のように多いけれども、子供もなく、誰に譲ろうという者もない。大家様のお世話で佐次平を息子にしようと相談すれば、もとより大の欲深い者なので、相談がまとまるやいなや仲人料のために、さっそく引っ越し。寝坊先生もよろしく
【左丁】
喜んで全財産を譲って鍵を渡したので、「これからは俺が財産の持ち主だ。精一杯節約して金を作らねばならぬ。相当な金もあるけれども、まだまだ親父殿に使い方が荒い。その上、ある金をも高く遊ばせておいてはすまぬ。枕商売も一回二百文では安すぎる。四百文くらいの価値はありそうなもの。近所の衆へも酒でも振る舞わなければなるまい。肴でももらってからのこと」と。
♪佐次平さん、起きて一服上がれ
英語訳
【Right page】
The next customer is a man named Sajihei who lives in the same tenement house. This man is naturally greedy, and since the sleepyhead teacher also earns money through pillow trade, the tips come in like mountains. However, he has no children and no one to inherit from him. Through the landlord's arrangement, they consulted about adopting Sajihei as his son. Since he was naturally very greedy, as soon as the consultation was settled, he immediately moved in for the matchmaking fee. The sleepyhead teacher was also pleased and
【Left page】
happily transferred all his assets and handed over the keys. So Sajihei thought: "From now on, I'm the owner of this fortune. I must economize as much as possible to make money. There's quite a bit of money, but the old man's spending habits are still too loose. Moreover, I can't let the existing money just sit there idly. The pillow business at two hundred mon per session is too cheap - it should be worth about four hundred mon. I should probably treat the neighbors to sake too. I'll get some side dishes first, and then..."
♪ Sajihei-san, wake up and have a smoke