翻刻!草双紙の世界

コレクション: NDL鳥居清長

思事夢濃枕 3巻 - 翻刻

思事夢濃枕 3巻 - ページ 7

ページ: 7

翻刻

【右丁】 つぎのおきや□□□□【くはいな】かの人かおやしき しれすひさしいねかいにてめしか こわめし【もち米を蒸籠(せいろ)で蒸したり釜で炊いたりした歯ごたえのある飯】汁かむつ【魚の名。冬に美味。】にとふふ【豆腐】のこく せう【「濃漿」こくしょう=料理の一種。肉や魚などをよく煮込んだ濃い味噌汁。】むきみ【蛤や浅蜊などの貝類の殻をとった中の肉】のぬたにとうからしを したゝか入やつとひつたてるやうな まぐろのやきものとくりにさけを一升をき たとへとのやうなしんだい【「身代」=身分、地位、暮らし向き】になつてもも此上 ののそみはなしよの中でもこふ ゆふりやうりは しらぬか定メて お大名はこんな物 をあがるてあろうだい みやうにはなにかなる やらとひとりこと はしも とらすにためつすがめつ【あちこちの向きからよく眺めるさま。】 ながめいれば 〽モシ〳〵 ひさしい【時間が長く経っている】ねやふ【寝様】だ  おきなさへよ 【左丁 上部の大部分が消えているので、見えている部分だけを翻刻する】 【つぎのおきやく】はつりすきとみへてねると 【そのまゝとり】かぢ〳〵とねごとを  【「とりかじ(取舵)」=船首を左へまわすことをいう船方言葉。】 【いゝこのころにな】いであてたとん【「凪いで当てた、とんでもない良い凪だ」】 【でもないよいなきた】とかしをふり【「舵を振り」か、「楫(かぢ)」カ】 【はりをおろすとそ】のまゝにさいやさん【「二歳や、三年くらいは」】 【ねんくらいはめつらしくも】なし十年にも 【なるかつうのやうな】きすくふほほと【「ほふど」=困惑するほど】に  【「かつう」=「かつお(鰹)の変化した語。】【くふほどに=(餌を)喰うほど。次の「かゝるほど」とセットで入れ食いの意味では】 【かゝるほとにふねにおき】どころもない 【くらいこれはえさがた】りぬは〳〵と 【そのことばかりくろう】にしてまつ 【おふや様へにほんとなり】とあにきの【大家様へ二本、隣と兄貴の】 【ところとあすこへも】こそふ【小僧】か 【せわになるからやろふ】ほんに 【むかふのこんれいきす】でもよか 【ろうかすこしは】やいがたな 【うけへもせつくも】やろふ   【店請け人のこと。=店子の身元保証人。】 【のこつたのをかう】あゝと【かう=こう「かう(だ)あゝ(だ)と(考えながら)】 【ふねからあがら】ぬ 【うちに】 【〽おひん】 【なれよ】

現代語訳

【右丁】 次に起きた客は身分の知れぬ人で、長い間の願いで、飯は強飯、汁は鯥に豆腐の濃漿、むき身の酢味噌和えに唐辛子をたっぷり入れ、やっと箸が立つようなマグロの焼き物と、徳利に酒を一升置き、たとえ殿様のような身分になっても、この上の望みはない。世の中でも、こういう豪華な料理は知らないが、きっとお大名はこんな物を召し上がるのだろう。妙に何かなるやらと独り言を言い、箸も取らずにあちこちから眺め入れば、 〽もしもし、長い間寝ていますね。起きなさいよ。 【左丁】 次の客は釣り好きと見えて、寝ると、そのまま「取舵」などと寝言を言い、「いい凪になった、当てた、とんでもない良い凪だ」「舵を振り、帆を降ろすと、そのまま二、三年くらいは珍しくもなし、十年にもなる鰹のような」食うほどに、かかるほどに船に置きどころもないくらい。これは餌が足りぬはっはっと、そのことばかり苦労にして、まず大家様へ二本、隣と兄貴のところと、あそこへも小僧が世話になるから、やろう。本当に向かいの権礼吉でもよかろうか、少しは店請けも世話もやろう。残ったのを、こうだあああと船から上がらぬうちに、 〽お昼ですよ。

英語訳

【Right page】 The next customer who woke up was a person of unknown status. Having long wished for this, he had arranged a meal of kowarai (steamed rice), soup with mutsu fish and thick tofu broth, shellfish meat in vinegar-miso sauce with plenty of red pepper, and grilled tuna so firm you could stand chopsticks in it, along with a tokkuri bottle containing one shō of sake. Even if he became a lord, he would have no greater desire than this. He didn't know of such luxurious cuisine in the world, but surely the great lords must eat such things. Muttering to himself about what might become of this, he gazed at it from all angles without even picking up his chopsticks. ♪ "Hey, hey, you've been sleeping for a long time. Wake up!" 【Left page】 The next customer appeared to be a fishing enthusiast. When he slept, he immediately began talking in his sleep about "port helm" and such, saying "What a good calm it's become, I've hit it, what an incredibly good calm!" "Swing the helm, lower the sail, and for two or three years it won't be unusual, like bonito that's been around for ten years" - eating to the point where there's no room left on the boat. "The bait isn't enough, ha ha," worrying only about that, "First two fish to the landlord, to the neighbor and big brother's place, and over there too, since the apprentice is indebted to them. Really, Gonreikichi across the way would be good too, I should do a little guaranteeing and helping." While thinking "what to do with the rest, oh my" before getting off the boat, ♪ "It's noon!"