翻刻
【右丁・上段】
しうげんの時はいづれも
むすび申也くはへも同前
くわへはてうしの口と提の
口とあふやうにすへし
一まの内にて。くわへする也
座敷せばくはしきゐごし
にする。たゞしひさげを内へ
入てくわへ申へし長ゑ
もちやう左の手をつき。右
の手に長ゑの酒の口を
我右になし横(よこ)に長ゑを
もち。つぐへし。ひさげの
持やう。つるの中程を右
にもち。左の手を右の手の
下へかさねて持也。扨てうし
左のかたへかへらは。ひさげは
【右丁・下段】
といひて。此宮にあつまりきゐて有けれは此おとこ
むぐらをひてあれたる宿の《振り仮名:うれたき|うれはしきはと也》は仮にも《振り仮名:鬼の|女のこと也》《振り仮名:すだく|あつまる也》成けり
とてなん出したりける。此女どもほひろはんといひければ
打わびておちぼひろふときかませば我も田づらにゆかまし物を
五十九
昔。おとこ京をいかゞ思ひけんひんがし山にすまんと思ひ入て
後撰
住わびぬ今はかぎりと山里に身をかくすべき宿もとめてん
かくて物いたくやみてしに入たりけれは。おもてに水そゝ
きな ̄ンどしていきいでゝ
我うへに露ぞをくなる天の川とわたる舟のかひのしづくか
となんいひていき出たりける
六十
昔。男有けり。《振り仮名:宮仕いそがは|なり平奉公にいそかはしき也》しく。心も《振り仮名:まめならざり|しんじつにも思はぬ也》ける程の。家
《振り仮名:どうじ|妻の事也》。まめに思はんと云人に付て。人の国へいにけり。此男うさの使
にていきけるに。ある国のしぞうの官人のめ(妻)にてなん有と聞て。女
【左丁・上段】
右の方へかへるべし。てうし
みぎへかへらは。ひさげは左へ
帰るべし。本しやくはむすべ
どもくわへはもとのごとくと
いふは此ゆへ也。錫子(すゞ)にて酌(しやく)
する時は。すぐのそこを両の
手にてかゝへてつぐなり
てうしくわへ。
【挿絵】
すゞ
てう花かた
【左丁・下段】
あるしにかはらけとらせよ。《振り仮名:さらずはのまじ|内義の盃ならすはのむましと也》といひけれは。かはらけ
取て出したりけるに。さかな成けるたちばなをとりて
古今
さ月まつ花たちばなのかをかげば昔の人の袖のかぞする
といひけるにぞ。《振り仮名:思ひ出て。|もとの夫と思ひて也》《振り仮名:あまに成|面目なしと思ひて也》て山に入てぞ有ける。
六十一
むかし。男つくし迄いきたりけるに。是は色このむといふ
すき物と。すだれのうちなる人のいひけるを聞て
拾遺
染川をわたらん人のいかでかは色になるてふことのなからん
女返し
後撰
名にしおはゞあだにぞ有べきたはれ嶋波のぬれ衣きるといふ也
六十二
昔年頃音信ざりける女。心かしこくやあらざりけん。《振り仮名:はかなき人|なかふとのいふにまかせ》の
ことにつきて。人の国成ける人につかはれて。もと見し人の前に出きて
物くはせなんどしけり。よさり《振り仮名:此有つる人給へと|きうししたる女をなり平所望せし也》あるじにいひ
けれは
おこせたりけり。おとこわれをばしらずやとて
いにしへの匂ひはいづら桜花こけるからとも成にけるかな