翻刻
ウニ恋シイコトゾイ
拾遺集恋 天暦御時歌合 平兼盛
しのぶれど色に出にけりわが恋は物や思ふと人のとふまで
○ワシガカノ人ヲ恋シウ思フノハ随分カクスケレドソチハ物思ヒヲス
ルカト人ノ問 ̄フ/ホド(まで)ニ顔ノ色ニ顕レタワイ
拾遺集恋 天暦御時哥合 壬生忠見
恋すてふわが名はまだき立にけり人しれずこそ思ひそめしか
○恋ヲスルト云ワジ【ママ】ガ名ハマダ云出シモセヌサキニハヤ立タワイ
人ニシラサズニ ̄サ思ヒソメタノニソレニマアドウシテ人ガ知タコトヤラ
後拾遺集恋 心かはりける女に人にかはりて 清原元輔
ちぎりきなかたみに袖をしぼりつゝ末の松山浪こさじとは
○フタリガ互ニ涙ヲナガシテ袖ヲシボリ〳〵イツマデモ心ハカハルマイ
若シ心ガカハツタラアノ高イ末ノ松山ヲ波ガ越ルデアラフドノヤウ
ナコトガ有テモアノ高イ末ノ松山ヲ波ガ越ルト云コトハナイコトヂヤスリヤ
互ニ心ノカワルト云時節ハトントナイナドヽハヨウモ〳〵約束(一)ハシタナア
古今六帖雑思 はじめてあへるあした 権中納言敦忠
あひみての後の心にくらぶればむかしは物をおもはざりけり
○一度逢テカラ後ノ心ニアハヌサキノ物思ヒヲクラベテミレバ逢ハ
ヌ昔ノ物思ヒハ物思ヒヲシタト云モノデハナカツタワイ逢テカラ
カヘツテ思ヒガナ双倍ニモナツタ
現代語訳
うに恋しいことぞよ
拾遺集恋 天暦御時歌合 平兼盛
忍ぶれど色に出でにけり我が恋は物や思ふと人の問ふまで
○私があの人を恋しく思うのは随分隠すけれど、それは物思いをするかと人が問うほどに顔の色に現れたよ
拾遺集恋 天暦御時歌合 壬生忠見
恋すてふ我が名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひ初めしか
○恋をするという私の名はまだ言い出しもしない先に早くも立ったよ。人に知らせずに思い始めたのに、それにまあどうして人が知ったことやら
後拾遺集恋 心変わりける女に人に代わりて 清原元輔
契りきな互いに袖を絞りつつ末の松山波越さじとは
○二人が互いに涙を流して袖を絞り絞りして、いつまでも心は変わるまい。もし心が変わったらあの高い末の松山を波が越えるであろうというような、何事があってもあの高い末の松山を波が越えるということはないことじゃないか。互いに心の変わるという時節はとんとないなどとはよくもまあ約束はしたなあ
古今六帖雑思 初めて逢える朝 権中納言敦忠
逢ひ見ての後の心に比ぶれば昔は物を思はざりけり
○一度逢ってから後の心に、逢わぬ先の物思いを比べてみれば、逢わぬ昔の物思いは物思いをしたというものではなかったよ。逢ってからかえって思いがなお倍にもなった