翻刻
【右丁】
風鈴の鳥の目をしもはなつ迄ふくや八幡の山おろしの風
島成
みなもとは木の葉くゝりて木の葉よりかろけに舟を水は浮つつ
隺雅
神垣の杉には絵馬を懸んとてうらみぬ針も打てけるかな
名古屋 竜屋
虫の巣と名をよひぬともひめおきてしみのすみかに玉をなさめや
津 五十瀬の屋
よる浪の青海はらは常磐木の露に雫やなかれいてけむ
近国
不尽のねを枕にちかく引よする夢のちからはたくひなきかな
大津 春眠
たらてたる事をししれは物思ひのなきを心の友とこそせめ
天童 松旭亭
いたつらにわか世ふけゆく庵りにはよき友なれや窓の月影
仝 調歌堂
さく花の都に遠き椎かもとしひこと【注①】しらぬ人のすむらむ
羽三条目 真波
西のはてひかしのはての国人も近き隣とならふ浦ふね
鹿沼 稲丸
【注① 誣言=作りごとを言う。
【左丁】
十四
俳諧歌文臺雅調
出羽天童 文歌堂真名富撰
十二
春夏之部
十二
をしかりし年のわかれのなかりせはいかて嬉しき春にあはまし
見付 草の舎
うくひすの泪の氷とけそめてこゝらなく音ののとかなりけり
三小川 斐竹
春ふけて声たかくなる鶯は老ゆくまゝに耳やしひ【注②】けん
津 五十瀬屋
風いとふかきりやかすむ山さくら人のいきもや花にこもれる
仝
香のそはる雫もゆかし春雨にぬれて【注③】を過ん梅の下道
岡崎 弓彦
初さくらまはらに咲もめでたしなあかぬ心は枝にみちつゝ
堺 速樹
野に山にうつしはてゝや春雨のふる日はみえす空のみとりは
千晴
うれしさに我とひたちぬ軒近く来ぬる鶯落付てなけ
山名 烏流菴
春の日の光あまねき春日野は若菜も空の色に出けり
秩父 清良
庭さくら待うちをいさ花にしてさかり長くや此春は見む
板木 一幸
今さくら咲はめてたし花のさちよそにみられし梢なけくも
野田 拍唫社
【注② しふ(癈ふ)=感覚・機能を失う。】
【注③ 濡れ手=㊀普通に「水に濡れた手。」の意と㊁「情を交わす人」の意があり、ここでは㊁の意味が良いと思う。】