翻刻
【右丁】
花山の花見に来しそ寺子らよ我をりにきと人にかたるな
サノフノ 明義
松かさるみつのあした【注①】は家毎の門より千代の色そこもれる
エ本 寉住
風の神天降るらし枝高きかたより花のちりそかゝれる
〃 一幸
倒さしと雨の恵みのひかへ綱まつはる藤の花の下いほ【庵】
鹿沼 稲丸
折せさる心にくさも数へらぬ花のなかめにけふはわすれつ
サノ 糸屑
春雨にわか身もろともゆるむ日の草木も長くのひにける哉
〃 花休
うきしつみあるをさとすか世中を水にまかせてちるさくら花
引又 広毛
春雨のおやのふる里見ならひて雲とみせさる山さくら花
〃 友寉
いつしかと汀の氷うちとけて池の心もはるをしるらん
水子 友翠
たのしさは咲ん花待内にありとひち【肘】枕する春雨の宿
天トウ ?し鷹
北山をふき来る風にわらはやみ【注②】やみてや枝のふるふ青柳
竹杜 津喜影
枝ことにおける白露青柳の糸もてむすふ玉かとそみる
宮サキ 近信
すみれ草けふ花さかんわか艸の藤よけにみえて春雨の降
三条タ【メヵ】 真波
世をわひんいほりさすなら梅のもと歌よみ鳥のとふらひやこん
上ノ山 真薫
【左丁】 十九
くれてゆく春のなこりをいかにせんかたみとなりぬ花もなけれは
〃 真影
待うちは花のつほみにこもりゐて人の心もひらかさりけり
シン庄 島音
花七日過るははつかさかぬ間を待は千とせのおもひなりけり
〃 之頼
もろこしへ聞えわたらんかたてめ【かくそめヵ】のふしは硯のうみよりも出つ
最手 真留
一重咲花をも八重に立かくす霞や風をよそになすらん
大道 夢盛
めてゝよる我袪【たもと】には入たらて野路にあふるゝ風の梅かゝ【梅が香】
白川 綾寉
引そむる霞にしるき梓弓おして春たつ矢野の神山
丹生 一親
むつましくしめをもはるの二見潟ともに霞の袖のひきあふ
松戸 阿字丸
春はけふかきりとあれは山さくら風をもまたす花のちるらん
セト 繁樹
三笠山光は花にゆつりつゝおほろにみゆる春の夜の月
ノ田 高?【持ヵ】
梅かゝは袖にすがりて中々にこゝは杉田【注③】のすきうかり【注④】けり
山田 真波
かくさんとかさす桜もみなちりて老をみせけり春の行日は
羽生 御年
誰か夢に入し名残そ春霞はるゝかたよりみゆか【注⑤】ふしのね
江戸 槙の屋
十二
玉としも人あさむけとしら露をおのれ糸にもぬかぬ蓮葉
琇唫社
【注① 三つの朝=年、月、日の三つの朝にあたるところから元日の朝のこと。元旦。】
【注② 童病み=間欠熱の一種。悪寒、発熱が隔日または毎日時を定めておこる病気。】
【注③ 杉田=横浜市磯子区杉田には、江戸時代は梅の名所として知られた梅林があった。】
【注④ 過ぎ憂し=立ち去りにくい。】
【注⑤ 見ゆが=見えるのが。助詞「が」の主格用法か。】