翻刻
陰陽師(おんやうじ)みのうへしらず
医者(いしや)の不養生(ふやうしやう)
儒者(じゆしや)の不届(ふとゝき)
算学者(さんがくしや)の
しんだいもたず
余情はゆめのさめて
たゝぼうぜんとおき
あがりはくねんのかん
らくもめいおわれば
いつすいのゆめぞかし
人をそしるもそしら
るゝもいづれもいちり
ありすべての事に
さきへすゝまず
あとへひかずちう
ぶんにてくらし
なば大つう人と
さとりゆめのやふすを
【右頁下】
これ八じやう
でもしま
ちりめんでも
すきな
ものを
かわつ
しやい
おさん
あし
たは しばい
だぞたゝ
しやかたに
しやふか
【右頁上の続き】
かないのものにはなし
なんだかおもしろかつたが
あとさきにてわすれた
事がおゝしあらましを
いゝきかする御はつと
ごとをあいもちひ
ひのやうじんを
大事にしてちう
こうふたつにかぎやう
してしやれて〳〵
しやれぬいて大つう
じんともとふりもの
ともなりてくらしなば
いつしやうくろふと
いふてはすこしも
なしげにありかたき
ぬりまくらなりと
よろこぶ
現代語訳
陰陽師は自分の身の上が分からず、医者は不養生、儒者は不届き、算学者は身代を持たず。
余韻は夢が覚めてただぼんやりと起き上がり、晩年の感楽も名が終われば、一酔の夢でしかない。人を謗るのも謗られるのも、いずれも一理ある。全ての事において先へ進まず、後へ引かず、中分(ほどほど)で暮らしていけば大通人と悟り、夢のようなものである。
【右頁下】
これは八丈でも縮緬でも好きなものを買ってください。お三、明日は芝居だぞ。ただし、社方(しゃかた)に謝罰(しゃばつ)。
【右頁上の続き】
家内のものには話していない。なんだか面白かったが、あとさきで忘れた事が多い。あらましを言い聞かせるお初と言葉を相用い、火の用心を大事にして、忠孝二つに稼業して、洒落て洒落て洒落抜いて、大通人とも古風なものとも成って暮らしていけば、一生苦労ということは少しもなく、むしろありがたい塗り枕であると喜ぶ。