翻刻
九左衛門は眷属を二手になし弐百疋を
従(したが)へ後陣(ごじん)に進(すゝ)ませ其身は三百余の眷(けん)
属をしたがへ同じくむ迎へ合せたり其
時日開野方より壱疋の大将顕はれ出
若輩の身(み)として我(われ)〳〵(ゝゝ)と戦(たゝか)はんとは
鼠(ねずみ)の猫に向ふがごとし今にも心を改(あら)
め降参せば一命を助くべし斯(かく)申我
こそ定めて音にも聞つらん地獄橋に
て古墓(ふるわか)をはやらせたる正一位衛門三郎
なりと名乗けり此時津田の陣(じん)より
またらの古狸其かたち小牛(こうじ)ことき物(もの)
踊(おど)り出申けるはこさがしき衛門の広(こう)
言(げん)かな我未だ百六才なれども穴観音(ああなくわんおん)
の御内にて一二をあらそふ川島の九左衛門
なり汝高官をしなから愚昧の禁
長を助け我〳〵と戦はんこそ誠に
虎(とら)の前の羊(ひつじ)の如し早く穴観音へ