翻刻
戦ひける院元はすこぶる年を経(へ)し
智謀(ちぼう)の狸ゆへ手勢三ツとなし二手は
左右の土手下(とてした)に伏置(ふせおき)其身は五六十の
眷属(けんぞく)を引て責戦ふ役右衛門方は大
軍なりければ事ともせず追立る院
元は偽(いつ)り負(まけ)て敗走(はいそう)す役右衛門は勝(かつ)に乗(のつ)
て追かけしに忽(たちま)ち左右の土手下より
木石(ぼくせき)を投(なげ)かけ〳〵百計りの狸顕はれ
出たりすはこそ敵の謀(はかり)事に落入たり
引や〳〵と下知するにぞ先に敗(はい)せし
院元取て返し三方より石にて打
立ければ役右衛門が勢は天窓(あたま)を打れ
脊骨(せぼね)を砕(くだけ)き我一に逃(にげ)んとすれば
味方が邪魔になり同志喰(どしぐい)に喰
合もあり又は足手を損(そん)ずるもありて
大 敗軍(はいぐん)になりにけり此時役右衛門は
味方敗軍するを見て大ひにいかり
みづから追来る敵を防(ふせ)ぎ目(め)に余る