翻刻
いゝさま彼太刀にて突懸りしが
ど?も熊鷹は飛鳥か如く馳違ひ透
を見ては打かゝへる大石にさしもの六
右衛門あしらひ兼跡をも見ずして
逃行を熊鷹は大ひにいかりさゝへる
狸を喰殺し〳〵何国までもと
追かけしに六右衛門は向ふの森へ
逃入たり熊鷹も供に追かけ
彼森に這入(はいり)けれはふしきや六
右衛門は見へず四方はぼう〳〵たる墓(はか)原
なり扨こそ敵の謀事に落入たり
いて引返さんとする所忽(たちま)ち四方八 面(めん)ゟ
六右衛門が手下顕はれ出大石小石を雨
のふるごとく打かけしかば熊鷹も今
は詮方なく最早我命も是迄なり
父の敵は討取たり此世に思ひ置事
なしと莞尓(につこ)と笑(わら)ひ其侭に舌喰切(したくひきり)
て死したりけるはゆゝしかりける有様(ありさま)