翻刻
なりむかし南朝(なんちう)の時湊川(みなとかは)にて
楠木正成が討(うち)死せしも斯あらんと
多くの狸皆 感涙(かんるい)を催ふしける
扨も禁長は小鷹を招きて申けるは
足下日比 恨(うら)みし敵作右衛門討とり
本望たるべし然るに我足下に
申置事あり今味方勝色なりと
いへども多く討死し残るは纔百
に足ぬ勢也敵弐百に余る勢な
れば後〳〵の合戦覚束なし是に
よつて汝は此戦ひを止まりて命を
全ふし此山の絶頂に登り我〳〵が
軍を見物して討死をするならば
某が死骸(しかい)を人の見ぬ所(ところ)へ隠し
埋め此通りを日開野大和様へ注進
し二代の禁長となり大和様の
屋敷(やしき)を守(まも)り我〳〵が亡跡(なきあと)を弔(とむら)
ひ下さらは是に増さる忠義はなし