翻刻
争(あらそ)ふ強の者九左衛門は六右衛門方にて鬼神
と呼はれし者なれば院元に喰合
陽に組合うなり叫(さけ)ぶ声は山海も
轟(とゝろ)くばかり也衛門三郎叶わぬ体
をなし浜辺をさして逃行を九左衛門
は大ひに怒り己広言にも似合ぬひ
けう者と一さんに追懸る衛門三郎は
仕済したりと逃ながら透を伺ひ
振り返り九左衛門は不意を討れ引はず
さんともがけとも大力の衛門三郎に喰(くは)
へられ動く事能わずたぢろく所を
衛門三郎は得たりかしこしと打倒し
其上に乗懸り手足頭のきらひなく
喰付しかば九左衛門勇也といえとも数ヶ
所の疵付られ終には此所にて討れける
衛門三郎は大ひに悦び立帰らんとせしが
数所の疵を受しと今朝よりの戦ひ
に身体 労(つか)れしが今九左衛門を討し