翻刻
六右衛門の脊骨(せほね)に当りうんといふて倒(たを)れ
るを太左衛門立寄て太刀をばいとり前(まへ)
足(あし)を切落し(せば)小鷹小鹿子は石にて
頭を打 砕(くだ)く禁長は彼太刀を小
鹿子に渡し早く夫の敵を討取(うちとれ)よ
と下知しければ小鹿子 嘻(うれ)【嬉ヵ】しくたちよる立
寄ていかに六右衛門今こそ思ひしりし
かというざま止めをさしければ禁長
は首打落しあら嬉しや本望
やと悦び勇み立上りしが気のゆるみに
やかつはと伏(ふせ)は太左衛門立寄て気を励(はげ)
ましゑへ言甲斐なし禁長き
ずは浅 疵(きず)也心を慥に持べしと小鷹
も供に介抱しける禁長は即正気づき
太左衛門 等(ら)に迎ひ我疵口浅しと覚へ共
身心甚たたへ難し此懸りにては所詮
存生(そんぜう)叶ひ難(かた)し最早六右衛門は討取外
に望みなしと又もや絶(たへ)いらんとする