翻刻
【右丁】
吉丁蟲 本綱𧒂螽附録出之藏器曰申蟲也背正緑有翅在甲下出
嶺南土人取帯之令人喜好相愛媚薬也又時珍曰宋祁益部記云利州山
中金蟲其躰如蜂緑色光如泥金俚人取作婦女釵鐶之飾者即是也
正字通云緑金蝉即爾雅蟥蛢一名吉丁蟲背緑翅在甲下
屈大均廣東新語云金花蟲大者如班猫有文采
其背正緑如金縁如金貼有翅在甲下一名緑
金蝉喜藏朱種花中一々相交取帯
令人相媚昌臧謹按当作緑金蝉
右諸説ヲ考レハ爾雅ノ蟥蛢一名吉丁
蟲又名緑金蝉ナルモノ和名タマムシナリ
金蟲及金花蟲ト云モノハ別ニ一種アルコト
ヲ不知シテ首飾トナスト云ニヨツテ混シテ説
ヲナス後ノ見ルモノ能辨別スベシ稲若
水著庶物類纂ニ金亀子ニ俗名タマムシ
ニ充コレ別ニ金亀子アルコトヲ不知故ニ誤充
ナリ今此玉虫高貴ノ婦人粉中ニ養貯テ秘
【左丁】
藏セルコトハ至テ舊キコトナリ加茂長明カ四
季物語ニ此事ヲ載置ルヨシ同僚繖渓ノ
勁亝岡君自筆シテ贈レルマヽニ左ニ貼出ス
【以下、矩形で囲む】
長明の四季物語に八月のところに
又なりはうつくしう玉むしなといひて
現代語訳
【右丁】
吉丁虫 『本草綱目』に「𧒂螽の附録として出ている。蔵器曰く、申虫である。背中は正緑色で翅が甲の下にある。嶺南に産し、土人がこれを取って身に帯びると、人を喜ばせ愛し合わせる媚薬である」とある。また時珍曰く「宋祁の『益部記』に云う。利州の山中の金虫は、その体は蜂のようで緑色、光は泥金のよう。俚人が取って婦女の簪や環の飾りとするものがこれである」とある。
『正字通』に云う「緑金蝉は即ち『爾雅』の蟥蛢、一名吉丁虫。背は緑色で翅が甲の下にある」とある。
屈大均の『広東新語』に云う「金花虫の大きなものは斑猫のようで文様がある。その背中は正緑色で金のように縁も金のように貼り付けたようで、翅が甲の下にある。一名緑金蝉。朱槿の花の中に隠れることを好み、一つ一つ相交わる。取って帯びると人を相愛させる。昌蔵謹んで按ずるに、当に緑金蝉と作るべし」とある。
右の諸説を考えれば、『爾雅』の蟥蛢一名吉丁虫、また名を緑金蝉と呼ぶものの和名はタマムシである。金虫および金花虫というものは別に一種があることを知らずに、首飾りとなすと言うことによって混同して説をなす。後の見る者はよく弁別すべきである。稲若水著『庶物類纂』に金亀子に俗名タマムシを充てる。これは別に金亀子があることを知らない故の誤った当て字である。今このタマムシを高貴な婦人が粉の中で飼い貯えて秘
【左丁】
蔵することは至って古いことである。賀茂長明の『四季物語』にこの事を載せ置いている由。同僚笊渓の勁岡君が自筆して贈ってくれたままに左に貼り出す。
【以下、矩形で囲む】
長明の四季物語に八月のところに
「またなりはうつくしう玉むしなといひて」