翻刻
北方の沙汰聞及ひける故人々仏神にぬかつき
祈念奉りけれともやかて黒煙り押あけやけ
音而已ならす震動雷電して砂降来りぬ
れは村々さわき鉄炮を打鐘太鼓をならし
時をつくりて逃ける猶又一ノ宮にては人々社中へ
集り釣鐘をつきたて逃ける春夏雲たち
あく氷などふりける時かのかねならしけれは
風をこり雲吹ちらし其災のかれける左は有し
と此度社天災といわんや時節至来といふへきか
神力にも及難くや有りけん其夜申の刻斗
よりなをも強く降来り八日朝漸ふりやみ
ひるには空も晴はたりけれは人毎に田畑見廻りけるに其
薫(カヲ)り酢のこどくいはふのにほひありて草津の温泉
あたり近き香に似たり一ノ宮近在は砂の大きさ鉄鉋玉
位ゟまゆ玉中には茶碗の大きさなるもあり又ふりし
時はそろ〳〵として足をふみこみぞうりわらんじ殊
の外ふみきらしけるゆへ其比はひと〳〵竹にて下駄を
拵へはきける【下駄の絵あり】如此也諸さくのあれたる事何にあらず
一品を用立物無イトヨク生立シ麻モ切残りしは葉を
打落しきづつきしゆへ立かれになり桑も枝
葉を打落しける誠に野山に青きものなくやけ砂六七寸
も見へけれは人々おどろき八日には御領主御やく所へ言上し