翻刻
様も数々御牧有共御私領は何の御沙汰もなく日を
経る侭に蕎麦之蒔時分にも成ぬれは人々開發
に取掛りける前代例なき事成れは何かなる手たて
にて埒明ぬへきと人々思ひ〳〵の道具を拵え限りに
情出しける第一克きは鋤簾なり是は此国になき
物也信州ゟ黒鍬といへる者きたり山畑川原へ新田に
開發し畑直し石垣抔請合ける是等之人遣ひ
ける道具也土をかきたてもつ篭とやらんに入けるに
利方能きものなりと人々鍛冶をたのみ拵けるいかなる
家に而も壱弐丁四五挺宛調へし壱丁に而五匁七匁五分位
迄のあたへにて其外手鋤の先懸いろ〳〵にて其頃は諸
職人隙にて開発にのみ出ける 鍛冶斗いとまなく昼
夜に細工あり又銭だしかねける人は竹に而拵用ひける
夫にても手 鍬(くわ)よりは埒明ける其外砂入を篭に而作り
車へのせて引も有り又竹へのせ引ける人も有り其外
さま〳〵の手便有りて彼よし是よしといへと能相手にて
持籠え入かつきし方第一よかりし又壱人かつきしもよし
車に而引けるも草臥少くしてよろしけれと砂を高く
かさねける時あしかりし兎に角砂敷迫く置ける事を
専一とす町在ともに年寄病身成者留守居して
女童部商人諸職人迄も開ほつに出ぬれば
しのふれどたこに出けり我手をは砂やになふと人のとふまで