翻刻
けれハおのつから人もおこりつゝ家作衣服にいたる迠
美れいをこのミ侍りぬむかしハ五七年の内にハ凶年もあり
て諸國共々穀物高直なりしがしハらく打續豊作にて
米壱石弐斗ゟ四五斗位のとしもあり麦も弐石六七斗
ゟ三石余も賣買あれハひえも四石余にて小幡御
成米三拾壱弐俵位の年もありて作方損なるやうにを
もひをのづから不情なり小作いたしてハ徳もなきなと
云つゝ皆買暮しとなりぬ其比は麻もよし蚕も
年々あたりて陽氣がらよろしまゆ絹の直段
もよくことさら細絹ほど利方よきゆへ絹数多くいで
きぬれハ世の中ゆたかにして年々奉公人すくなく
して給金もまさりなミ男三両二三分麻びきけるもの
ハ四両余女子水しにても弐両余もとりける十二三才の
女子迠も一両一弐分の給金にて男子ハ十四五才にも
なりぬれハ弐両もとらんといふ前方ハ二月ニ日三日比よりして
町在かたにても奉公人居所をきゝたて市のことく来り其
人躰を見心ざまをもたづね召かゝへけるゆへ慥かなる者をえらミ
かゝへしに近比ハ主人の方にて尋廻りやうやくきゝ出し召
抱けるゆへ給金ハのぞみ次第也中にハ不身持なる人をハしれる
かたにてハ抱ずして居をくれけれとも後々ハ實躰
なる人よりも高給をとりてたのまれけるこそ珍しき
事也しかあれハこそいよ〳〵不奉公にて主人の難義也