翻刻
居たるものあり是なん鳥に而ハあらし猿よりも大き
なる姿なれバいとあやしミ行てみ【「三」のくずし】んとすれと泥深くして
足のふミ所なしよりて永く此木に【「二」のくずし】登り居たる事
三日を過てやゝかの木の元に行てミれバ此僧也いのちを
際に此木に取付居て正気を労せ【「世」のくずし】し事思ひやられて
哀也此寺千七八百軒の旦家千軒余流れしとや
かの僧其後南蛇井の本山へきたりかたりしを聞て人の
咄しけ【「介」のくずし】るをしるし侍りぬ
川筋村々にて大木に大勢の人鳥のとまりたることく登り居
たるを其侭押出しけれバ川きしに並居たる人をミて助け
給へくと聲々に泣さけぶといへども助命の方便もなく
手にあせを振り居たるのミ也又家作り丈夫なりしは【「八」のくずし】家も
くづれずしてそのまゝ押きたり人々二階に登り居て窓より
顔を出しよべとさけべとセん方なく川ばたにまもり居けれハ
白井といへる村に至り寺の下なる岩かどへあたりなかれき
たる家皆々崩れしと也
其頃手川村といへるに家富ける人有り三ノ門迄有りて隣
家の人たりとも取次にてやすく對面する事なし常に
酒宴遊藝にのミ心を寄セける也川筋泥押ニ而大勢
の人流来りぬる事をきゝ夫婦の者見物ニ出けるか弐人共に
日かさにて酒肴をもたセ出しハたけ狩か花見抔の出立也
誠に十目の見る所これを指さゞさる人なし其驕りを