翻刻
天のにくみ給ふにや十年を過さる内家蔵まても賣
払ひ道のはたへ小家をしつらひかけ酒を賣て世を渡
りけるとや後にハ處にも住居成かたく離散しけると也
馬うし泥の中に居て足抜さるを長きさほのうらへ草
なとゆひつけ差出しぬれバ三日程ハ是をくひけるよし
後にハ足の皮たゞれ死すなり
上湯原にて家内四人成しか亭主ハ畑へ出しあとにて泥
押来りけるに三人の者土蔵へ籠りけるに頓而土蔵の下へ
水つきし故二階へ上りけるに亭主立帰り見るに家内の
者居合す尋呼けれハ土蔵の窓ゟ顔を出し是に〳〵と
いふ蔵ハ外ゟ地形ひくき所成しか忽水勢ニ而前へ押出し高き
まゝね?へ押寄土蔵ハかへわれしゆへ上より手をとり助け出
しけれハ間もなく泥水大きに押来り前なる欠へ押
落し流ける此人常に稲荷を信心しける故土蔵わ
れ助りしと其比専ら沙汰有りしとなり
其後程過て或?川はたへ毎夜光りも能見へけれハ里人怪
しと思ひもしや金ニてもうつもれ居たるかと其場を掘
ミれハ川島明神の御論旨也此川嶋明神ハ當国十二
社の内にて神慮明鏡のことし
又有家ニ而主人ハ商に出立帰りてミれハ泥押来り家に
入る事ふ叶して前なる小高き所に登り伺ひミれバ妻子ハ
二階の窓ゟ覗き互に顔見合居たりしか共行てたすく