翻刻
盲亀の浮木を得うどん花のひらくを見たるこゝちして
よろこひ酒肴を調へ隣家の人々をむかえてもてなしはや夜
も更ぬれハふしどに入りていねたりすでにうしの刻とも
おもふ頃月色朦朧として風こすゑをならし不覚(スロ)に
ものすごくしてミじろきもセすふし居たりかの死人の霊
魂枕のもとに来りていへらくなんし我所持したる金を貪
りもてきたる事いとにくき業なり命を際に人の家
蔵にしのひて財宝を盗取りし業ゟもにくしすミやかに
其金帰すへしといへる有りさま大膽なりし彼男もおや
へす髪も身の毛もそばだちていと〳〵おそろしく思いひ
夜のあけゆくを待わひ頓而もちゆき其金を屍の
首に懸置立帰りける又ある人其よしをきゝて川はたに
行死人に向ていへらく足下非命の死をなしたもふ事
水中の苦しミ思ひやられて哀也又今首に掛給ふ
金を子孫に譲りまいらセたく思ひ給ふべうぞあらめど
察し侍るといへとも何国いかなる所にやをくるへき便なし
願くハ其金我らに恵ミたまへしかあらハ子となり親と
思ひ予か先祖の廟と同し?所に埋めしるしをたて
尊霊成佛得脱の為に僧を供養しなからく
香花を手向奉らんもし此事うけひき給ハずハ先夜
のことくきたりて告給ふへしとて其金持来りぬるに
ぞの夜もまたの夜もきたらされハ其もふねんきへ