翻刻
見れば東は本所|巽(タツミ)は深川西は丸の内|乾(イヌ井)は小川町
南は京橋の辺り北は下谷|艮(ウシトラ)は千住吉原浅草
すへて火の口《ルビ:はたち|二十》はかり見ゆ丸の内
京橋のほとりなとの近きは火の子《割書:火の子といへる事|平家物語に見ゆ》
ちりぼひ家〻の燃る音さへあからさまにていと〳〵
すさまじ其夜は北風にて京橋の火は我をる町
《割書:西河|岸町》を《ルビ:しり|後》にせれは気づかはしからす又丸の内の火は
火の行かたはらにあたれり小川町のは追風(オヒテ)にて
いと〳〵あしければかにかく火のやう見んとて
家を出つ時に丑の刻ばかりなり我町は《ルビ:ぬりごめ|土庫》
おほかた崩れたれと家〻は庇おち傾きたる
のみにてひたと倒れたるはなく一石橋の南の
橋きはの石垣少しく崩れおち《ルビ:いしたゝみ|甃》ゆるぎ
壊れたり此橋を北鞘町のかたさまへわたるになゐぶりの
ために《ルビ:つち|大地》のすべてあれすさみしはおほかた
ひとひらの紙をもみしに似たればこゝにいはず
又さりかたきは後にもいふへし先鎌倉河岸より
ニ三番の御火除原の前を過き四番のはらのうしろへ