翻刻
脳めりなどおろ〳〵聞えて人も家もなへてこゝち
静ならす《ルビ:よへ|昨夜》新吉原町のくるわの火に焼れて
身をうしなひしは其|地(トコロ)にありとありし人〻の
半(なか)ばばかり也と聞ゆかつ生のびたる《ルビ:あそ|遊女》ひどもは
繋(ツナ)がぬ船のはつる泊りをもとめんとて市路を
《ルビ:さま|呻吟》よひありく又《ルビ:びやう|病者》さ置せ給ふ浅草の獄舎を
ひらきて罪人を放たれしかば其人〻市にあらびを
なすときこゆ我は今日(ケフ)家にありてあづかる所の
火の災ひなからしめんこゝろえなどす午過る頃
吾|連(ナガヤ)屋の荒たるさまを地主にまうし告んとて出(イ)づ
青物町より海賊橋を渡り霊岸橋より右り
霊岸島の辺りに火地のさまを見て永代橋に出づ
青物町よりこゝまで建てつゞきたる家〻ぬりごめは
なゐのゆりふるひたるかぎり江戸のうちすべて
裂け頽れざるはなければくだ〳〵しくうちかへし
いふべくもあらずさて橋を架(ワタ)りて左の方佐賀町へ
行に家〻右り左りより打倒れて小路をふたぎ
ぬれば人〻とともに家の倒れたるを踏こえて