翻刻
《割書:命せられしかば其心を得て|忽ちもとの相場に帰したり》かゝるすぢも時に従ふおのづからの
勢ひにて又とゞめがたき所なりかし今夜子の刻
過る頃大手御門の内下御勘定所より火出しかど
他(ホカ)も焼ずして鎮りぬ四日|天晴(ソラハル)家に在りて壁の
こぼれ塵ひちなど打はらひ衣服入し櫃
つゝらなど取|収(ヲサ)めて後吾墓どうろのいかに
荒けん又《ルビ:め|婦》なるものゝ老たる母うへの安否も
訪はまほしくて家を出づ江戸橋をわたり小船
町を過る此ほとりなどはつよくゆりしさまなり
横山町壱丁目飯沼屋源兵衛がりを訪ひ老母又
人〻の事故なきを歓ぶ同二丁目の佐葆介我
三丁目の田中甘志を訪ふにふた方ともに恙なし
こゝらの大路のありさまを見るになゐぶりの為に
うせたるものゝ|亡骸(ナキガラ)とおぼしく《ルビ:ある|或》は酒入れし
樽又は水桶かつは蔬などに裹(ツヽミ)たるまゝにていくら
ともなくさし荷ひゆく本所の回向院又は浅草
下谷などおの〳〵其よせあるかたへとりおくなるべし
嗚呼さもあるべし新吉原に死せるもの丸の内