翻刻
小川町なとの第宅又本所深川なとは殊にすさま
じうゆり動きしと聞ゆれは物にふれて死し
たるものはいかばかりにかあらん甘志もいとま告て
吾よるべの《ルビ:みてら|香花院》を訪らはんとす甘志もともにと
いへるにさらばとていざなふ行〻阿部川町称念寺《割書:一向|宗》
地中願信寺に至るに堂舎共にいたく牋(ソコナ)【残の誤りか】ふ
住僧にあひて安危を訪ふに辛うして恙なく
凌ぎしといふ金ひとつを《ルビ:たゝう|畳紙》がみにして香料に
さゝく本寺の庫裡(コリ)はいたく荒たれと本堂は
瓦落壁毀れたるのみにて先つ平らか也墓所は
いかにと気遣いしくまゐるに人のも我のもなべて
打倒れてあさまし吾しるしの石起こしてと思へど
老の手の及ぶところにあらざれば空しく礼して
帰る道のほど浅草新堀端御書院番組屋敷内
安井氏峨松同所奥の原大井氏千紫児玉氏
立基を訪ふにみな事故なきをよろこふ日も
暮ぬべき際(キハ)なれば家に帰りぬけふ我みてらへ
まゐりしをり本堂の傍らに人の《ルビ:なき|亡体》がら十ばかり