翻刻
権現又観世音の在(イマ)す堂社のほとりに染わたり
たる楓葉の斜に日に映したるがいとめでたし
こゝを出て三橋(ミハシ)をわたりて見やるに広小路の
東側松坂屋といへる呉服屋の角 ̄トまてなへて
焼る此中にも松坂屋は多くのぬりこめみな《ルビ:ほのほ|炎》に
成て一抹(ヒトツマミ)の塵埃も残らず江戸商人第一の損失也
と聞ふ又此裏につゞきたる町〻多く焼る下谷池の端
茅町の辺りも焼しと聞ゆれと行ずして
御成道を家路の方へさすに同所石川日向守殿
屋敷焼る此向ひなる井上某殿の屋しきはゆり
潰れてたゝに薪などちらしたるやうに見ゆ
筋違橋をわたりて吾家へ火ともし頃にかへりぬ
さておもふに本所深川はなゐぶりの殊に
つよかりしに歟行かふ人〻あるは車ひきもの
擔ふなる雇人等も多く身うちに疵つきて
見ゆ我をる町のほとり南は京橋芝北は神田
本郷のあたりはゆりふるひしも緩きにかかゝる
人たちも疵つきたるは少なかりきこはいつれも
【上段】
後に芝辺へ行しに
露月町芝井町
宇田川町神明町
辺は家倒れ潰れ
しも少なからす
又下谷なとも坂本
箕輪の辺は是も
倒れ潰れしさま
いとすさましかりし
すへて同し芝の内
同し下谷の内にて
動揺の強弱あり
此外も皆しかり